契約恋愛


いつもより体温が高い気がする先生の手の平は、少し汗ばんでいるように感じた
手を重ねながらあーだのうーだの言って、挙動不審に首を動かしている
さっきまで余裕で笑ったり冷やかしたりしていたのに、今の先生は見たことがないくらい落ち着きがない
口をへの字に曲げて頭を掻いて、そっぽを向きながらこう言った


「っ…………お前、凄いな」

「な、何がですか?」

「いや……照れたりなんだりしてるけど……よく言えるよな」

「何をですか?」


先生は背を向けたまま口籠る
そしてチラッとこちらを向いたかと思ったら、うずくまるようにしてボソッと呟いた


「だから……好き、とか……そういうコトだよっ……」


もう一度派手に頭をぐしゃぐしゃにして顔を伏せる
黙って見つめていれば小さく何か呻いて、何かを決意した赤い顔をこちらに向けた


「お、お前を揶揄ったりするのも段々クセになってきて……リハビリだってくっついたりしたのも途中から自分の意思でやってたし……照れたり喚いたりする顔も……冗談じゃなく可愛いって……お、思ってるし……」


つられて私も顔が赤くなる
先生がわざと囁く甘い言葉より、拙くて歯切れが悪くて小さな声で聞き取りにくいのに、心臓に突き刺さって先生から視線を外せなかった


「授業中もお前を目で追ってるの気付いてると思うけどっ……そ、そういうの…………す、すす……す、好き、に、なったって……言うんじゃ……ねぇの……?」





照れた目と目が合ったまま無言が続いて見つめ合う
お互い赤面して放心状態なのかもしれない
何かの家電が放つ機械音が時折聞こえてまるで誰もいないかのようだ
そして鳴る唾を飲み込む音
先生が次の言葉を発しようと、息を吸う


「りおに触れるのも揶揄うのも……もっとしたいと思ってる。だから……勝手に終わりだなんて言うなよ」

「だっ……て……契約は……」

「もう契約だなんて言うなっ……」

「だって……なんでっ……」


これ以上泣かないで終われる筈だったのに、先生の言葉に涙腺が緩んで決壊する
拭っても拭っても溢れてくる涙に笑って、先生が照れた笑顔を見せた


「もう契約なんて関係ねぇよ……好き同士なら一緒にいるのが当たり前だろ?」

「先っ……私の、こと……?」

「……ちゃんと言うからよく聞いとけ」


抱き締めて首筋に顔を埋められて、大好きな癖っ毛が私をくすぐる
そしてその後耳元で、今まで聞いたことのない甘い甘い台詞が鼓膜に溶けていった





「りお、好きだよ」





そう囁いて顔を見合わせて、先生が優しくほっぺにキスをした
涙で濡れる頬にしょっぺぇなと照れ隠しで言いながら、もう一度優しく唇を押し当ててくる
嬉しいのと恥ずかしいのと安堵が一気に押し寄せて、私は声を上げて泣いてしまった


「うぐっ……せ、先生……ホント?嘘じゃない……?」

「嘘でこんなコトしたら捕まるから。や、バレたら普通に捕まるか」


はははと笑ってみせたものの、それだけは冗談では済まされない
高校生と教師の恋愛が御法度なのは私にだってわかる
それでも尚、先生は私に向かって


「……めんどくせぇかもしんねぇけど……俺の彼女になってくれる?」


と、頬を染めて言うのだった
鼻を啜りながら頷くことしか出来ずムードもあったもんじゃない
先生に至ってはティッシュを取って私に「はい、ちーんは?」なんて言うから胸板を叩いてやった
二人で笑えば自然と身体が引き寄せられる
先生の胸に抱かれて、私は初めて両想いの幸せに酔いしれた


「……お前がこれから経験する全部の幸せは俺が最初に与えてやるから……覚悟しとけ」

「幸せに覚悟なんているんですか?」

「それはお前次第だよ」


吐息の感じで先生が笑ったのがわかる
何が可笑しかったのか顔を覗き込もうとすれば、逆に先生の手がおでこに当たった


「……前髪、どけんな」

「え―――」ちゅっ


柔らかくぷにっとした感触を目の上に感じた
それが唇だと瞬時に悟って、全身燃え上がるように熱を帯びた


「ちょっ、先……ぇえ!?」

「今更驚くなよ。さっきほっぺにしたし」


そうだけど!
さっきは泣きじゃくってて有耶無耶になった感があった
それがっ……よくよく考えれば抱き着き過ぎだし、ここは二人しかいない空間だ
両想いになったばかりとはいえ、ゼロ距離の危険性に発熱と発汗が止まらない


「せ、先生っ……あの……私……」

「なぁりお」

「なん、ですか……?」

「アイツに言ったこと覚えてる?」

「アイツ?あぁ……幼馴染ですか?」

「そ」

「え、えーと……何でしたっけ……」


私が考えたフリをしているのを見抜いて先生がまたキスをする
瞼に当たったそれは音を鳴らして私の羞恥心を煽った
「覚えてねぇのかよ」と不服そうに言ったけど先生の顔は笑ってて


「思い出すまでコレ繰り返すか?」


そう言ってちゅっちゅちゅっちゅと顔中にキスを落としていた


「せ、先生……!」

「なに、くすぐったい?それもまぁ……唆るよな」

「そうじゃなくて……!アイツに言ったことって……」


思い出せない私にため息を見せつけるように吐き出して、その後こっちを見た視線はいつもと違っていた
死んだ目でも呆けてる目でもない
潤んでるのに力強くて、逸らせない程絡む視線


「先せ「もう限界なんだよ」


両手で頬を包まれる
そしてぶつかるおでことおでこ
先生の苦しそうな押し殺した声に、私の耳は釘付けになった


「……いい大人だけどな……そろそろ我慢の限界なの」

「なに、言って……」

「ほっぺじゃ無理。物足りねぇ」

「だからっ……」

「俺も男だ。お前に……欲情してんの……わかる?」


おでこが離れてもう一度目が合う
濡れた瞳が私の心臓を射抜いた
熱い肌に熱い吐息
それを私にぶつけてきて、先生が甘く囁やいた


「キスさせて」


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