契約恋愛
街灯で照らされているものの、暗がりで近付いてくるソレは一人でニヤニヤして気持ち悪かった
サーッと冷めた感情が頭のてっぺんから爪先まで、行き渡り過ぎて妙に冷静だった
その人の舐めるように私を見る視線も、ゴミ屑を見るような目で見返してやった
「久しぶりじゃん、元気だった?」
「アンタに言う「あー、元気じゃねぇか。俺に振られて涙目になってたもんな」
こうやって人を傷付けて何が面白いのか
その言葉のせいで私はっ……感情が昂りかけたけど、それこそ相手の思う壺だと一つ深呼吸をして、出来るだけ無感情で言い返した
「そうかもね。幼馴染がクズのゴミみたいになっててショックだったわ」
睨見つけた彼の顔が引き攣っている
まさか私に言い返されるとは思っていなかったんだろう
彼の中で私は、大人しくて反抗してこないただの同い年の女だ
確かにそれで繕ってた所もある
控え目な女を演じていれば悪くは思われないだろうと
彼の理想はわからなかったけど、仲のいい幼馴染くらいには思われたくて必死だった
そんなことも無意味だったと、今ならハッキリわかるのに
「で……何してんの?珍しいじゃん、お前が夜に出歩くなんて」
「……関係ないでしょ。私もう行くから」
「うっわ、これだからコミュ障は。振られたからって世間話も出来ねーの?ヤバ」
本当に、どうして私はこの人を好きだったんだろう
高校から疎遠になったからって、こんな本性を見逃していたのが驚きだ
いや、幼い頃はこんな性格じゃなかった筈なんだけどな
「……話なんてないよ。本当はそっちだってないでしょ?揶揄ってるならやめて」
「わざわざコミュニケーション取ろうとしてる俺の気遣いがわかんねーの?まぁな、俺の顔見るのも辛いよな、きっとw」
気遣いと言いながら馬鹿にしているのが透けて見える
私を貶めて優越感に浸りたいのか、そのニヤけた顔は記憶の中のそれより遥かにおぞましかった
「私もう帰るから。暇なら勝手にブラブラしてなよ」
「たまにはいいじゃん。2ヶ月ぶりくらいか?久しぶりなんだからよ」
「振った相手に堂々と話し掛けてくる神経がわかんないんだけどっ……」
「そんなコト根に持ってんの?振られたからって性格悪過ぎ」
「振られ方にもよるけどね……!」
強くなった語尾に流石に向こうも反応した
どうやら私に言った言葉を覚えてるようだ
一瞬気不味い顔をしたけど、次の瞬間にはもう通常運転だった
「そう怒んなって、久しぶりなんだから。な?りお」
汚い口で私の名前を呼びながら近付いてくる
後退りしたかったのにこの身体は、怒りなのか恐怖なのか足がすくんで動かなかった
「ほら、一緒に帰ろうぜ?」
手首を取られてゾッと背筋が凍る
冷や汗のような脂汗のようなものを感じながらも掴まれた腕を払えなかった
そのまま引っ張られるようにして勝手に家へ歩こうとする
あんなに好きだったのに
こうして触れられてみたいと思っていたのに
今は嫌悪感しかない
「ちょ……!やめてっ……」
「家近いんだし送ってってやるよ」
勝手に決めて勝手に行動する
私の気持ちなんて関係ない
自分が満足すればそれでいい
強引なんて言葉じゃな片付けられない
だって先生は……強引だったけどちゃんと私の気持ちを聞いてくれた
いつでも私を気遣ってくれた
こんな独りよがりなことはしなかった―――
「いたいたー。りお、お前スマホ忘れてったぞ」
少し遠目の街灯が届かない場所に浮かび上がる人影があった
はっきり見えないにも関わらず、私にはポッケに手を突っ込んでダラダラ歩いているいつもの姿が想像出来た
その人影は少しずつ私達に近付いてきて、発する声に涙が出そうになった
「ったく、りおは……おっちょこちょいだな」
「せんっ……ごめん、なさいっ……」
パーカーのフードを深く被って眼鏡を外した先生が、安心しろと言わんばかりに優しく微笑んでくれた
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