契約恋愛
『こんな時代に言うのもアレなんだけど、お前って可愛くないじゃん?顔がっていうか……雰囲気含めて全部?ゴメン。知ってるかもだけど、俺ルッキズムだからw』
告白した相手から返ってきたDMは、それはそれは悪辣なものだった
私はちゃんと面と向かって告白したはずだったのに、その場では有耶無耶にされて数時間後に来たのがコレである
振られるのは大方予想はついていた
彼はモテるし、私からしたら高嶺の花だ
いわゆる幼馴染だった
幼少期からずっと一緒で、ついに高校で離れ離れになってしまった
疎遠になったまま、それでも彼に長年同じ想いを抱いてきた
ようやく決心して告白したものの、久しぶりに会った相手にあんな言葉を投げられて……幼馴染だからって傷付くとは思わないんだろうか
こんな冷たい言葉を吐く人じゃなかったのに
高校デビューとは、恐ろしいものだ
カンカンカンカンカンカン!
ごちゃごちゃ考えていた頭が遮断機の音で遮られる
振られて溢れてくる涙を何とかしようと外に飛び出たのはいいけれど、特に行く当ても無くこうして踏切の前で立ち尽くしていた
一体何分経ったのかもわからない
遠くから迫って来る電車の轟音すらぼやけて聞こえていた
今線路に飛び出したら……思わず良からぬ事が脳裏をかすめる
容姿も中身も否定されて、この先生きていく価値なんてあるのだろうか
こんなに悲しくて辛いなら、いっその事……
ジャリっとスニーカーの底が音を鳴らす
一歩を踏み出そうか出すまいか、急に現実味を帯びてきた選択に汗が流れる
痛いだろうな
即死出来なかったらどうしよう
もしこれで電車が止まったら、損害賠償は親にいくのかな?
だったら違う方法の方がいいのかも……
失恋如きで何を言ってるのかと思うかもしれないけど、今の私にはこれが全てだった
生きるか死ぬかの選択が、簡単に天秤に掛けられる程
「っ…………」
電車の音が間近に迫る
震える足が僅かに動くも身体は拒否している
それでも心は疲弊仕切っていた
もう明日からどう生きたらいいのかわからない
この苦しさから解放されたい
もう恋なんて出来ない世界に行ってしまいたい
だからもう―――
電車がライトだけで迫って来て目が眩んだ
最後に聞こえた轟音もいつも線路を走る電車そのもので、何かに衝突した形跡は何も無かった
それは私が一歩を踏み出せなかった事を意味している
混乱する頭で考るも酸素が回らない頭は働かなかった
死んでないのに息が苦しい……?
身体は無事だけど息が出来ない
一体どういう事なのか、脂汗を垂らしながら今の状況を理解しようと思わず首に手をやる
「苦しっ……」
Tシャツが後ろに引っ張られて気道が潰されていた
そのTシャツを引っ張っている誰かの声が、電車が通り過ぎて静寂に包まれている踏切に響いた
「何してんの、お前」
同時に手を離され身体が解放される
勢い余って倒れ込んで咳をすれば、その男は私と同じ高さにしゃがんで顔を覗き込んできた
「大丈夫か?りお」
聞き覚えのある声に見覚えのある顔
数時間前に同じ教室で顔を合わせた人物
「ぎ、銀八……先生っ……」
「……立てるか?」
先生の言葉も上の空で、電車に飛び込もうとした気不味さが私を支配する
完全に見らた
そしてあろう事か助けられた
プライベートで会った事なんてなかったのに、どうして今日に限って……!
立ち上がりながら呼吸を整えて、何事もなかったように振る舞わなければ
担任に自殺しようとしてたなんてバレたら、タダじゃ済まな「え?何。死のうとしてた?お前」
「…………」
この教師はオブラートに包んで言うとか、腫れ物に触るように扱うとか、配慮というものを知らないのだろうか
いや、配慮ってのもおかしいけれど
「え、えっとぉ……」
目なんて合わせられるわけもなく、挙動不審に目が泳ぐ
怖いなんて思った事のない銀八先生の死んだ目が、ずっと私から離れなかった
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