若気の至り
名前変換について
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飲み屋を辞めて、その後いくつかの職を転々とした
その間何人か恋人も出来て、いよいよ結婚をしたのは何年前か
子供にも恵まれて、家族に囲まれ今は幸せに暮らしている
だから移り住んだ町で、あの人とすれ違った時は心底驚いた
私は子供の手を引いて
彼は両脇に男の子と女の子を携えていた
「銀、時……?」
「零……か?」
互いに振り返って、数メートル離れて立ち止まる
時間まで止まった気がして、あの頃の感覚が一気に蘇った
別に身体が疼いたわけじゃない
温もりが、感情が
思い出として全身を駆け巡った
「元気……だった……?」
「おう。ご覧の通りで」
「……何も変わってないわね。昔とおんなじくるくる天パで」
「そこかよ!」
声を荒げると、隣の子供達が笑って更に冷やかしている
先に行けと促して、再びこっちに振り返った
「……零こそ元気そうで」
「おかげさまで」
「その子は……」
「あぁ、この子は」
「まさか俺の子!?」
「違うわよ馬鹿!!ちゃんと計算して!」
真っ昼間に大きい声で話す内容ではない
それに気付くと目が合って、あの時みたいに二人で笑った
同じ町で偶然出会い、束の間の思い出に浸った
ただどちらともなくあの関係には触れない
突然終わったあの日のことを、ああだこうだとほじくり返すのは不粋だ
今目の前にいる相手が幸せそうならそれでいい
立ち話の数分間、その思いだけで会話を繋いでいた
「じゃあそろそろ行くわ。こう見えて仕事の途中でよ」
「ごめんなさい、引き止めて。そしたら……」
その続きは言わない
同じ町に住んでいるらしい
会うかもしれないし会わないかもしれない
私達はただの顔見知り
それ以上でもそれ以下でもない
過去に何があろうとも、今の自分には関係ないのだから
背中を向けてそれぞれの道へ進む
子供の手を引いて、私は夫が待つ家に帰る
あの人は……あの子供達と何処かへ行くのだろう
全く……やっぱり少しも変わってないのね
「誰かと一緒にいなきゃ寂しくて死んじゃうのかしら」
ねー?と、子供に問いかけても答えが返ってくるわけはない
にこにこ笑っている我が子を抱き抱えて、振り向くことなく家路についた
「銀ちゃん、さっきの女の人誰アルか?」
「そうそう、やけに懐かしんでましたけど」
仕事を終えて万事屋に戻ってひと息つく
愛用の椅子に深く腰掛けて、鼻をほじりながら空を見つめた
「あぁ……昔ちょっと世話になってな」
「綺麗な人でしたね」
「新八ぃ!お前はそんな目で初対面の女を見てるアルか!?いやらしいにも程があるネ!」
「ちげーよ!!単純に純粋にそう思っただけだから!!」
ギャーギャー騒ぐ二人を余所に、椅子を回転させて物思いに耽った
あの頃の自分に多くを聞かずに付き合ってくれて、きっと最後は傷付けた
女と寝ることで虚無感を誤魔化そうとした愚かな俺の犠牲者だ
「そっか……そうだよな……」
心の何処かで未練があったのかもしれない
所帯を持っているみたいだから深追いはしなかったけど
あの時、手を掴んで離さなかったらどうなっていたのか
他の女を切って、零だけを捕まえていれば何かが変わっていたのだろうか
そんな想像をしたって意味はない
どう足掻いても過去には戻れないのだから
「はぁ〜あ……ったく……いい女になっちまって……」
あれからすっかり女運はなくなった
そう言ったら
「身から出た錆でしょ!」
お前ならそのくらい言うんだろうな
終
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