上司と部下
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あれから数日が経った
零は失恋したことなんかおくびにも出さず職務を全うしている
時間を見つけては稽古もしているようだった
ただ、朝の道場にやってくることはなかった
「俺と鉢合わせるのが嫌なのか?」
そう聞いてみたら笑って
「眠いだけですよ。副長だって毎朝じゃないですよね?」
零の失恋を唯一知る優越感はあったが、もしかしたら避けられているかもという不安もあった
自分の醜態を見られた男には仕事といえど関わりたくないはず
上司と部下じゃそうも言ってられないが、なんとなくそんな気がした
だから必要以上に構いたくなる
「零、見廻り行くぞ」
「零、書類整理手伝ってくれや」
「零、今度の将軍護衛の件だが……」
明らかに増えた俺からの呼び出しに、零は少し困惑しているようだった
けれどそんなものは関係ない
俺がそうしたいからそうするまでだ
「副長、お茶です」
「ん」
個人的に部屋に呼んで書類の山を一緒に片付けていた
他の誰でもない零を選んだのは勿論下心があるからだ
失恋の傷は少しは癒えたのか
また一人で泣いてるんじゃないだろうか
男とよりを戻そうなんて馬鹿なことは考えていないか
受け取った湯飲みを啜りながら零を見つめる
目は赤くないし、肌の調子も良さそうだ
稽古にも身が入ってると誰かが言っていたが、男と会ってる時間はなさそうだった
「お前も少し休め」
「いいんですか?お茶頂いても……」
「当たり前だろ。そこに煎餅もあるから……」
畳を這って隠していた煎餅の袋を引っ張り出す
零の横を這いつくばっていれば、副長がそんなことしないで下さいと叱られた
それすらくすぐったくて下を向いてニヤけていた
「いいんだよ、ホラ食え」
「……ありがとうございます」
煎餅の袋を受け取ろうとした零の手に目がいった
そのままなんの許可も得ずに手を取る
袋を落とした零が、目を丸くして驚いていた
「ど……どうしたんですか?副長」
「いや……」
それ以上言葉が出ずに手を包む
初めて触れた零の指先は、自分より遥かに細くて心許ない
きつく握り締めれば壊れてしまいそうだった
そして零は握られた手とわけのわからない俺の行動に戸惑っているのが見え見えだった
急に手を握られて撫でられて、頬が心なしか色付いていた
「……いい手だな」
「は、はい……?」
手の平を上に向けてじっと見つめた
稽古で出来たのか、はたまた職務中に出来たのか、両手に沢山の豆が出来ていた
皮膚が硬くなって傷もある
そこを愛おしく想ってなぞれば、ビクッとして手を引いた
「お、女の人の手じゃないですよねっ……」
「何言ってんだ……お前が頑張ってる証だろ」
逃げた手を捕まえてもう一度撫でる
湯飲みを弄っていたからか、少し熱い気がして顔色を伺った
「副長……もう離して下さっ……」
「嫌だ」
真っ赤になっている零をもっともっとそうしたくて、細かく震える手に唇を落とした
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