上司と部下
名前変換について
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
着流しで座る道場の床は冷たかった
裾から出た素足がひやりと触れる
零は正座をして俺の横で俯いたままだ
昨日のアレを人に見られていたという羞恥と困惑に、口が開ける状態ではなさそうだ
だから切り出すのは俺しかいない
「……たまに来るんだよ。悪いとは思ってるが……見たくて見たわけじゃねぇ」
「そう、だったんですね……すみません、お見苦しい姿を見せてしまって……」
「いや……」
見苦しいだなんて思っちゃいねぇ
ただ心配で
あんな零は見たことがなかったから
だから今日もこうしているかいないかわからないのにやって来た
そして目の前には目を腫らしたコイツがいる
敢えて少し顔を覗き込むようにして、零の様子を伺った
「何か……あったのか……?」
「……副長に話すまでのことではありませんっ……」
「……こんな顔してか……?」
また手が伸びる
自分から触れておいて動揺してしまったさっきとは違い、確かに零の体温を感じる
泣き過ぎたせいか、目を擦ったせいか、少し肌が荒れてカサついている
男のガサツな手に触れられて、もしかしたら痛みを伴ったかもしれない
それでも今にも泣きそうになっているその顔を、何度か撫でて声をかけた
「……零」
「っ…………副長……どうしたんですか。今日は……優し過ぎますっ……」
「俺はいつでも優しいだろうよ」
「ははっ……何言ってるんですか……鬼の副長って呼ばれてるの忘れました?」
口から出た言葉は笑っていたが、それと同時に涙が俺の手を濡らした
零は一つ大きく息をつくと、意を決したように話し始めた
「大した話ではありません。よくある話です」
「何でもいい、言ってみろ」
「……聞いて損したって言わないで下さいね?」
「あぁ」
こんなに情をかけておいて、零のことを何にも知らないんだなと思い知らされる話が始まった
「私……恋人に振られちゃいまして」
「……は?」
毎日一緒にいて、飯を食って、他愛ない世間話なんかもして
それでも知らなかった零の私生活
男の存在なんて微塵も感じさせなかった
恋人のこの字も漂わせなかった零は、俺に壁でも作っていたのか
他の隊士達は知っていたのだろうか
「それで……なんか……結構きちゃいまして」
「そんなに……好き、だったのか……?」
「まぁ……好きは好きでしたけど……なんて言うんでしょうか……」
「……?」
「私のことが嫌いになったとか……他に好きな人が出来たとか……そういう理由じゃなかったんですよ……」
「わけわかんねぇな。そしたら一体なんだって……」
膝の上で指を組んで、何処か言い難そうにそれを動かす
言葉を待っている俺に気を遣って、ようやく続きを口にした
「……真選組、辞めろって言われて……」
「……は?」
苦笑いを向けられて、悲しそうな目が合った
「どうにも私が忙しくしてるのが気に食わないみたいで……自分との時間がなくなったって」
「そ、そりゃ警察官は……いや……相手にしてみればお前のことが心配になるか……」
「違うんです。心配というよりは……やっぱり気に食わないみたいです、女が出しゃばるのが。そんなつもりないんですけどね」
俺の言葉を遮るように首を振って、ポツリポツリと話す零
覇気がなく、ただ流れるように喋っていた
「真選組に入ることは私の夢でした。彼も最初は応援してくれて……その甲斐もあって入隊出来て。一番隊に入れたことは私の誇りです。けど……」
「けど……?」
「段々彼の様子が変わってきて……仕事で遅くなれば嫌味を言われたり、非番の日に呼び出されれば優先順位を問われました。終いには……」
「…………」
「……皆さんに……男に媚び売ってんだろって……」
零がどれだけ努力してきたか
それを誰より近くで見てきた自覚がある
叱責もされたし怪我もした
確かに男に劣る女の力で、それを認めさせた零の実力は隊士皆がわかっている
それを彼氏というだけでどうこう言うのは、聞いてるだけで腹立たしかった
.