上司と部下
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昼間の仕事は滞りなく済ませたつもりだ
上と下の問題児達も、今日は何も面倒事を持ってこなかった
故に仕事は捗った
現に今、いつもより早い就寝時間を迎えて布団に寝転んでいる
それが居心地が悪いらしい
日を跨いでから寝るという悪癖が、こんな時に仇となっていた
何度も何度も寝返りを繰り返し、たまに起き上がっては煙草に火をつける
終いにゃ夜も明けてきて、何の意味もない徹夜が完成してしまった
理由はある
仕事をしていても飯を食っていても、零のことが頭から離れなかった
幸いと言うべきか、今日の任務では顔を合わせることはなかった
それなのに寝ようと目を瞑れば昨日の姿が頭に浮かぶ
誰もいないのに声を殺して、それでも嗚咽が漏れて、最後には膝をついて泣いていた
あんな零は知らない
あんな弱い姿は
いつも毅然として隊士に誇りを持って行動していた
真面目で何事にも一生懸命で
たまにする注意にも腐ることなく対処していた
その反面、コロコロ変わる表情が人懐っこくて、自分にはない感情表現にくすぐったいものを感じていた
喜んでいるのも怒っているのもわかりやすい
俺はそれが好きだった
ただ泣き顔は知らなかった
白んできた空に目を向けて副流煙を吐き出す
もう寝ることを諦めた身体は徹夜二日目だというのに案外軽かった
もしかしたらまた道場に零がいるかもしれないと、勝手に思って足を向けて歩き出した
大体昨日と同じ時間
本来ならいない方がいいはずなのに、何処か期待して少し足早になっていた
零がどうしてあんな行動に出ているのか
そして泣いていたのか
もしいたら、今日こそは声をかけようと決意を固めて唾を飲み込んだ
「やぁ!!」
中を覗くまでもなく、道場には零がいることがわかった
昨日と同じように素振りでもしているのだろうか
あげている声だけは力強かった
その声のする方をそっと覗き見る
デジャヴかと思う程、昨日と重なる零の姿がそこにはあった
ただ目元を腫らして
「頑張ってんな」
決意通り、さも何でもない様に声をかける
今初めて見たように、たまたま偶然通りかかったかのように
煙草でも咥えて勝手に感じているぎこちなさを誤魔化したかったが、道場ではそうもいかずに腕組みをして上司らしく偉そうに戸口に立つしかなかった
「ふ、副長……!おはっ、おはようございます!」
よっぽど驚いたのか言葉に詰まる零
頭を下げられその隙に近付く
近付けばその身体は熱を発していて、またガムシャラに竹刀を振っていたのがわかる
礼を解くと上げた顔に、つい目がいってしまった
遠目よりもハッキリわかる
目元を擦った跡
充血している瞳
それを隠そうと咄嗟に背ける顔
その頬に思わず手が伸びた
初めて触る零の肌に、骨張った指がピクリと反応してしまった
そして零は、突然上司に触れられたことに動揺を隠せていなかった
「……どうした?」
「何がっ……でしょう……」
間違った
まずは朝稽古のことに触れなきゃならないのに、前の日のことが気になりすぎて早まった
何度か往復させた頬の手を引いて、もう直球をぶつけるしかない
「あー……目ぇ……腫れてる……」
「あっ……」
「昨日も……いただろ、ここに……」
顔を伏せた零の肩がビクついた
昨日という単語に反応して、それから暫く顔を上げなかった
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