上司と部下
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誰もあまりやりたがらない早朝稽古
朝早くに起きて身体を動かすことに加えて、床掃除までを道場を利用する掟として定めている
そのせいか、我先にと先陣を切って使う者も中々いなかった
だからたまに、徹夜明けのボーッとした頭をなんとかしようと足を運ぶことがある
わざわざ道着に着替えて竹刀を握るわけでもない
ただちょっと、あそこの空気が神聖な気がして立っていれば胸がすく様な気がするだけ
それで頭を切り替えて朝礼を迎える
誰に気付かれるわけでもなく、たまにやっているルーティンみたいなものだった
それが昨日の話だ
雀の鳴き声に足音を紛らせながら道場に向かっていると、ダンッ!と物音がした
それは竹刀を構えて足を踏み込む音で、中で誰かが稽古をしているのは明白だった
別に邪魔をするわけじゃないんだから堂々と声をかければいいものを、何故だか身を隠すようにして入り口から中を覗く
竹刀を振り下ろす隊士が一人
型も糞もあったもんじゃない
ただ乱暴に、一心不乱に竹刀を振り回す隊士
「零……?」
真選組唯一の女隊士
零の姿がそこにはあった
ここまで女の隊士が育ったのは零が初めてだった
気概があって筋もいい
それを見抜いた俺は、目を掛け手を掛け、個人的に熱心に指導した
教えたことは確実に身に付け実戦で披露していく
「副長の教えがあってこそです」と言われれば、密かに胸を熱くしていた
そしてついには一番隊に入れ……総悟にも屈しないと見込んだ抜擢だった
礼儀も度胸も剣術も、申し分ないと思ったから入隊させたのだ
それが
「あんな適当にぶん回して……何してんだアイツは……」
らしくない零の姿に疑問を抱きつつ、ついでに稽古をつけてやろうと中に踏み込もうとした
ガシャン!
竹刀が床に叩きつけられた音に、その動きを封じられた
少し驚いたが何のことはない
手でも滑らせて竹刀を落としたのだろう
あんなに適当な動きをしていれば当然のこと……
「うぅ……ぐずっ……」
中に入って、竹刀を拾って、今まで見ていたことを注意するつもりだった
なんだその剣捌きはと、少し叱るつもりでいた
それなのに
「なに……泣いて……」
見たことのない零の姿に足が竦んで、それ以上動くことが出来なかった
何分そうしていたか
未だ零の鼻をすする音は鳴り止まない
嗚咽混じりのその音は、無性に心臓を締め付けてきた
いつも気丈に振る舞っている零からは想像も出来ない姿
こんな朝早くに何があったというのか
考えれば考える程苦しくなる
副長ともあろう自分が、部下の様子の違いに何を戸惑っている
声をかけて問題解決に動くべきだ
どうした
何があった
と、そう言えばいいだけなのに
いつまでも泣いている零を道場に残して、鬼の副長は静かにその場から立ち去った
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