胡座
名前変換について
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週初め、休み明けで身体の怠い坂田銀八は、職員室を出て朝のHRの為にダラダラ廊下を歩いていた
早く週末にならないかなと月曜日に思うのは滑稽かもしれないが、同じ社会人なら共感してくれるだろう
そんな事を思いながら歩いていたが、何やら校内の様子がおかしい
いつもだったらこの足音も、生徒の声に掻き消されて聞こえないはずだ
サンダルが廊下を鳴らす音なんて、自分だってどんなだったか覚えていないのに
白衣がなびく音も、生徒名簿が擦れる音も、怖いくらい聞こえて思わず喉を鳴らした
「え……なに……?」
静まり返った廊下に1人立ち止まって周りを警戒する
誰一人登校して来ていないかのように物音がしない
職員室には教師がいたわけで、今日が臨時休校になったわけでもない
そもそも、窓から下を眺めた時には校内に入ってくる生徒が見えた
それがどうして気配を感じない
「も、もしかして……神隠しか……!?」
霊的な事を想像して血の気が引く
ただの神隠しだって存在するのかわからないのに、それが集団でなんてあり得るのか
銀八は背筋に悪寒を走らせながら、3Zの教室までを慎重に歩いていた
何分かかったわからない道のりがようやく終わろうとしている
3Zの教室の手前まで来るとドアのガラスから中が見えた
「なんだよっ……」
一気にホッとした表情になって取っ手に手をかける
新八も神楽も、学級委員長の桂も、皆きちんと登校して席についている
静まり返っている謎は残ったままだが、胸をなで下ろして勢いよくドアを開けた
「なんだぁ?全員急にお利口さんになったのか?」
騒ぐことなくきちんと着席をしている生徒達を揶揄して反応をみる
ツッコミ係りの新八でさえ未だだんまりだった
仕方なく出席を取ろうと全体を見回した
いちいち名前を呼ぶのが面倒で、そういうスタイルにしたのだ
廊下側から窓側へ、視線を移してしっかりと確認した
「はいはい、全員出席ねー」
あとは学校からのプリントを配って、1時間目に備えるだけ―――
「…………」
ちょっと待て
廊下に出ようとした身体を止めて脳内だけをフル回転させる
落ち着け
巻き戻すんだ
今自分が取った行動を、頭の中で思い出せ
プリントを配った
出席を取った
生徒をからかっ……
「出席……!」
思いっきり反転して教室の1番後ろのいつも空いていた席、誰も座ることなくポツンとしていた席に目をやる
偉そうに
脚を組んで
ポケットに手を突っ込んで
少し顎を上げた眼帯姿のアイツが、じっとこちらを見ていた
「た……高杉……!お前っ……来てたのか!?」
「……おせーよ」
鼻で笑って、寄りかかった椅子がカタンと鳴る
最強で最凶で最恐のヤンキーが、3年Z組に帰って来たのだった
これで謎が解けた
静まり返った教室
異様な空気
それは全て高杉が登校してきた影響だったんだ
ハム子に至ってはガタガタ震えてやがる
桂も神妙な面持ちで腕を組んでいる
風紀委員の3人も、鋭く目を光らせているようだった
「先生ー!」
「零……どうした?」
そんな気不味い空気をもろともしないのは零の長所なのか短所なのか
堂々と手を挙げて、この場で1人だけ笑顔で嬉しそうにしていた
「あのっ……晋ちゃ……晋助、今日からちゃんと学校来るって言ってます!いい子になるって!」
「そこまで言ってねぇ」
「来るって事はそういう事でしょ!」
隣同士で俗に言う夫婦喧嘩を始めた2人に教室内がざわめく
高杉をもろともしない零に、案外普通に会話をしている高杉
その様子に少し緊張が解れたのか、心なしかいつもの3Zに戻りつつあった
「とにかく!先生、晋助はもう大丈夫なので心配いりません!」
「ははっ……そうだと願ってるわ……」
口角を引き攣らせながら零に答えるのは高杉からの視線が痛かったから
1番離れた場所からガンを飛ばしてくる高杉は、零に向ける表情とは真逆の顔で担任を見据えていた
「…………」
「…………」
例え言葉を交わしていなくても、高杉が何を言いたいのか伝わってくる
零に関わる全てのものを排除しようと、その目が語っているからだ
いや高杉、お前わかり易過ぎ!!
声に出して言いたかったが口を覆って何とか思い留まる
あの放課後の事を根に持って、俺を敵視しているのがひしひしと伝わって来る
ていうか、そういう風に持ってったのは自分だけど、こうも上手くいくとは思っていなかった
零と仲がいいと小耳に挟んで、ちょっと突っつけばどうにかなるかな?なんて更生なんて深く考えずに軽〜く思ってただけなのに、まさかこんなドンピシャに成果が表れるなんて
恋って怖いね、晋ちゃんんん!
覆った手から笑い声が漏れそうになってもう一度高杉に振り返る
最後にからかってやろうと、いやらしい目付きで高杉を見た
「最後に……零、今日日直だったよな?」
「はい」
「悪いんだけど……昼休み、ちょっと俺の手伝いしてくんね?」
「えぇええ〜!先生、日直はお手伝いさんじゃないんですよ!」
「わかってるけどよぉ……俺1人じゃ時間かかることでよ。お前と2人でやればすぐ終わるから!2人で!な!?」
「もぉ……わかりましたっ」
悪いなと言って教室を出た
後ろからの視線がかなり痛かったけど、気付いてないことにしよう
席を立った生徒達が高杉の周りに集まっている
それを廊下から確認すると、さっきとは違う柔らかな笑みを残して職員室に戻っていった
「来ると思ってたわ」
仏頂面どころか、殺気立って職員室に入ってきたのを何とか押し戻したのは正解だった
昼休み、本当は何もなかったのに無理矢理段ボール箱を持たせて高杉を別の教室へと誘導した
零と俺を2人きりにさせまいと、朝に伝えた手伝いを零に代わってやって来た高杉に愛おしさすら感じる
チョロい……チョロいよ晋ちゃん……!
笑いの次は涙が出そうだった
その後ろではやっぱり睨みを利かせている高杉が、荷物を持ったまま素直に付いてきていた
「ここ……あそこの机に置いてくれ」
俺の言葉に従う高杉は、周りから見れば更生への第一歩を踏み出したように見えるんだろうか
それはそれで面白いが、からかうならやっぱりこっちの方がいい
「なんでお前が来たんだよ。俺は零に頼んだはずだけど?」
「……零はお前の召使いじゃねぇ」
「たまたま日直だったから声かけただけだろーが。何そんなに警戒してんだよ」
高3といえどもその目付きからは殺気が読み取れた
どうしたらそんな風になるんだよと、職業柄少しは心配になる
零にちょっかいを出してると勘違いされて、報復されても敵わないし
「高杉……あんな?俺は零のこと何とも思ってねぇからな?」
「…………」
納得してなさそうな顔をして睨み続ける
そんな事あるわけないと、教師生活を棒に振るほど馬鹿じゃないと言っても、高杉の顔色は変わらなかった
「あの時の事を根に持っ「お前が言ったんだろ、胡座かくなって」
とっくに用がなくなった教室で、男2人が睨み合う
片方はそんなつもりは無いが、生徒に負けまいと目を逸らさなかった
もう一方は敵意を持って、しっかり相手を睨んでいた
「零に……あいつにちょっかい出す奴は俺が排除する」
「だからさ……なんでそんな物騒な言い方すんの?俺の零に触るなってことだろ?」
「っ…………」
やっと逸らした目に動揺が見えて嬉しくなる
ついでに言うとうっすら頬も赤くなったような
青春真っ只中の男女のアレコレに、教師と言えどもこれ以上口を挟むべきではないと苦笑いが溢れた
「とにかくだ。お前はこれ以上問題を起こしてまた停学とかにならないように努力しろ。それがお前の為にも零の為にもなるだろ?」
「んなこと……わかってんだよっ……」
恥ずかしくなっただろう高杉が教室を出て行こうと背を向けた
こんな気持ちを持ち合わせている高杉が、ステッカー騒動に関わっているなどどう考えても辻褄が合わない
お節介かもしれないが、ひと役買って出ようなんて思ったりした
「あ、高杉」
「……なんだ」
「最後に聞くけどよぉ……」
身体を向き直して俺を見る顔付きは、幾分か和らいだ気がした
「幼馴染にちょっかいを出す担任教師とかけまして〜?」
「…………ととのいました。幼馴染にちょっかいを出す担任教師とかけまして……脂っこい物を食べ過ぎた翌日の朝……と解きます」
「……その心は?」
ドアを勢いよく開けて、さっきのは錯覚だったと思わせる狂気な目で俺を見てきた
「ムカつく……!」
終
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