胡座
名前変換について
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腹が膨れて満足したはずの零が、シェイクを片手に歩いている
ハンバーガーとポテト、それだけ食えば十分だろうに、帰り際に買い足していた
「晋ちゃんもいる?」
なんて、お前とは胃袋が違うんだと言い返してやればムッと膨れていた
通り慣れた住宅街に差し掛かれば久しぶりに零の家が見える
昔はよく互いの家を行き来して、飯だなんだと居座っていた
そんなことはもう暫くしていない
こんな俺を零の両親がどう思っているか、流石に聞かなくてもわかる
懐かしい外観を眺めて、それで終わりにした
「晋ちゃん、たまには上がってく?」
たまにコイツはエスパーなんじゃないかと思うことがある
心を読まれた気がして、言葉に詰まった
「……いや、いい」
「なんで?ママも晋ちゃんに会いたがってるんだから」
「…………」
グイッと手を引かれたが、力を入れて抵抗する
寂しそうに見つめてくる零から目を逸らしたのは、俺の僅かにある良心の表れだった
「……今行ったら飯出されるだろ。俺はもう食えねぇ」
「あ!そうだった!ご飯いらないって連絡するの忘れてた!」
もっともらしい言い訳をして、なんとか家に上がるのを避けたかった
零がどう言おうとも、親の本心なんてわかったもんじゃない
「えー……どうしよう。私また怒られちゃう」
「またって……」
お前は学習能力がないのか?と、怪訝な表情を向けたが見ていない
代わりにキラッキラの笑顔が返ってきて逆に不気味だった
「……なんだよ」
「晋ちゃあん」
この呼び方にはいい記憶がない
不信の目で見つめてやっても零には効かなかった
「ねぇねぇ、もうちょっと時間潰そ?その間に連絡入れておくから、そうしたら怒られるのもマシになると思うの」
「どっちにしろもう作ってあんだろ、きっと。怒られるに変わりはねぇ」
「わかってるよ!マシになるかもって言ってるの!」
「はぁ……」
なんで俺が零の親の心情まで推し量らないといけないのか
お願いしますと両手を合わせて迫って来る零の柔らかいほっぺをむにっと摘んで
「1時間だけな」
「ありがとう!晋ちゃん!」
どうにも弱い零のお願いを聞いてしまった
これが学校内で恐れられる俺の実の姿だった
時間を潰そうったって、何をしていいのかわからない
暫く近所をブラブラしていたが、小言を言う零には疲れてきた
停学がどうとか、ステッカーがどうとか
正直自分の話はどうでもいい
終わったことだし関わりのないこと
わざわざ零が心配して話す内容ではない
こんなことを話すくらいなら、こっちだって聞きたいことはある
「晋ちゃん、歩くの疲れたからブランコに座ろ?」
小さい頃に遊んだブランコを指さして、暗く静まり返った公園に入っていく
心許ない街灯が、微かに零の笑みを映していた
「懐かしいね〜」
なんて、ブランコを漕ぎながら無邪気に笑っていた
ギィギィ鳴る音がやたら大きくて、世界中の音がここに集約されたのかと思うくらい響いている
それが気になったのか、スニーカーでブレーキをかけて早々に止めてしまった
「……なぁ」
「ん?何?」
隣で漕ぐわけでもなくただ座っている俺に顔を向けてきて、話を聞こうと小首をかしげる
話しかけておいてその顔を見られなかった
「…………」
「何、晋ちゃん」
「あー……」
どう聞けばいいのか、言葉が見つからない内に発してしまったことを後悔した
聞きたいことは明確なのに、どう言えばいいのか言葉に詰まる
さっきの学校での出来事を、担任の事を、俺が切り出すのはきっとおかしい
急にそんな事を言えば不思議がるのは目に見えている
下手な事を言って、零が単に俺の事を心配してやっている行為を無碍にするかもしれない
そう思って出た言葉は酷く曖昧なものだった
「お、俺がいない間……なんか変わったことなかったか?」
「変わったこと?」
質問に更に首を傾げてうーんと唸る
少し上を見て、思い出そうとしている仕草が久しぶりだった
「特に……人間、関係っ……とか……」
「えー……?」
誘導尋問しているようで気が引けたが、咄嗟に名前が出て来ない様子に安堵する
零から見て、あの銀髪教師は眼中にないのがわかったからだ
が、問題は相手がどう思っているかだ
「変わったこと……ひとつあるよ」
その返事にピクリと眉が上がる
出来るだけ表情を変えずに零を見つめた
「なんだっ……」
「それはねぇ……」
ブランコから立ち上がった零が自分の前に立ちはだかる
上から俺を見下ろして、なんならちょっと怒っているように見えた
「晋ちゃんが教室にいないこと!私すっごくイヤなんだから!」
俺がいない間の話を聞いてるのに、その根源を責められてあんぐりしてしまった
天然なのか何なのか、自分の感情に素直すぎる零は答えの食い違いに気付いていない
そしてそのまま捲し立てた
「私は晋ちゃんと3年生の思い出も作りたいの!そして一緒に卒業したいの!それなのにっ……新学期早々停学とか……どうしていつも心配させるようなことするの!?」
興奮していて怒っていて、少し涙声なのがわかる
僅かな街灯が瞳に反射して、俺の目には潤んで見えた
拭ってやりたいのに俺の口から出たのはいつもの悪態だった
「だから……心配してくれなんて頼んでねぇ」
「私だってそんなのしたくないの!でもしちゃうの!晋ちゃんのことが気になって仕方ないの!!だからっ……」
乱暴に擦った目からは涙が溢れていた
泣きながらも訴えてくる零
嗚咽を交えながらずっと同じ事を言っている
「もう危ないことしないでっ……晋ちゃんがケガしちゃったらどうするの……!」
俺が喧嘩で負けるとでも?と言えば、そういう事じゃないと火に油を注いだ
こんな泣かせるつもりはなかった
ただ気に食わない事が出来て、牽制しておきたかっただけ
それでも相手を間違えた
威嚇すべきはアイツだった
自分も立ち上がって零の顔を覗き込む
ようやく触れた頬は冷たく濡れていた
「……もう泣くなって」
「じゃあ約束して!」
「……はぁ」
「はぁじゃなくて!ん!」
小指を突き出して、指切りげんまんを強要してくる
こんな子供じみたやり方を高3になった今でも自然としてくる零は、やっぱり自分が護らなきゃと覚悟を決めた
「……わかった」
「ホント!?約束ね!!」
絡めた小指を軽く振って、ようやく笑った零に安堵する
それでも釘を差しておくのは忘れない
担任にはもう相談することはないと言うと零も頷いた
あとはこっちの問題
坂田銀八をどうするか、零の家に向かいながら話しかけてくるのも上の空で1人思案していた
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