胡座
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停学明け早々、ステッカー騒動だなんだと難癖付けられて、放送部に取材まで申し込まれた
なんとかの部屋とかいうスタジオにまで連れられてインタビューに答えざる得なくなったが、上手く謎掛けをととのえられたことには満足している
夕刻、そのインタビューの帰りだった
久しぶりに自分のクラスである3年Z組の教室に寄ろうなんて思い立った
まだ俺の机はあるのかなんて、少し感傷的になりながら
「だから……」
「わかったって……」
廊下を歩きながら何か話し声は聞こえるなと思っていた
それが3Zの教室だったなんて、ドアの前に立ってようやく知った
逆光でわかりづらかったが窓際に立っている担任らしきシルエット
そしてその前に立つ小柄な女の後ろ姿には見覚えがあった
「先生!ちゃんと調べて下さい!」
「だから今―――っと……零、後ろ」
「え?」
振り返った女はやっぱり知っていた
暗がりの中、電気も付けずに何やってんだとスイッチを入れれば聞き慣れた声もした
「晋ちゃん!」
「零……」
ドアから一歩入った俺に駆け寄って来たのは、腐れ縁の幼馴染の零だった
パッと一瞬表情が明るくなったような気がしたが、次の瞬間にはしかめっ面
停学中もコイツからの連絡を全て無視していたわけで、零が怒っていないわけがなかった
「晋ちゃん!学校来るなら教えてくれてもいいじゃない!」
「あ?何でわざわざお前に言う必要があんだよ」
「私だって心配したんだから!そのくらいいいでしょ!?」
「誰も心配してくれなんて頼んだ覚えはねぇ」
零のデカい声に担任の銀八が小指で耳の穴をほじくっている
面倒くさそうに、鬱陶しそうに
死んだ目は、例え生徒の前だとしても鈍く濁っていた
「よぉ高杉。丁度今お前の話してたんだよ」
「…………」
そうなの!と会話に入ってきた零に遮られて返事を言えずに口を閉じる
正直言いたいことがあったが飲み込む形となってしまった
そのまま興奮状態の零が銀八に詰め寄った
さっきまでしていた話の続きらしい
「晋ちゃんは今回のことに関係ありません!」
「それはなぁ……本人に聞いてみねぇと」
「私にはわかるんです!晋ちゃんは「あ、零」
チラッと時計と俺の顔を見て、銀八が零に近付いた
「お前もう塾の時間じゃね?」
「え!?ホントだ!遅刻しちゃう!」
急に慌ただしくカバンを手にして帰り支度をする零を、見つめる銀八の目が気に食わなかった
「先生!私は帰りますけど晋ちゃんのことは本当によろしくお願いします!」
「はいはい、わかったって」
「晋ちゃんも!後で連絡するからちゃんと電話出てよ!」
「……多分」
「絶対だよ!?じゃ、また明日ね!」
ガラガラッ!
ピシャンッッ!!
の音を最後に、嵐が去ったような静けさに包まれる教室
男二人で取り残されて、必然的に目が合ってしまった
「……珍しいな、お前がココに来るなんて」
「たまたまだ。もう帰る」
担任と居る空間なんて真っ平御免と背を向けて、零と同じく去ろうとした
「まぁ待てよ。せっかくだ、話そうぜ?」
こんな時に仕事をする気を起こさなくてもいいのに
そう思うと自然とため息が出ていた
全く関係のないステッカー事件について、何を話せというのか
ここでもインタビューに答えなければいけないのかとウンザリした
「もうさ、しつこくてよ」
「は?」
「だから……零がよ」
「……なんの話だ」
「何って……お前も半分くらい聞いてただろ?今回の事件について、お前は関係ないって俺に訴えてきたんだよ」
「…………」
「や、別に俺だってお前を疑ってるわけじゃねぇよ?それなのにやれ『晋助はやってない』だの『晋助はそんな人じゃない』だの……俺犯人扱いしてませんけど?って感じ?」
あの廊下まで響いてきた声が自分を擁護する内容だったと知って胸が熱くなる
また勝手に零がお節介を焼いていたんだと、ガラにもなく表情が緩んでしまった
そしてそれを見られていた
「ホントしつこくて……晋助晋助煩くてよぉ……」
「仕方ねぇだろ、零はそういう「思わず塞ぎたくなっちゃったよね、唇」
ピキッと何かが切れそうになる感覚に襲われる
目の前の大人が、教師が、何を言ってるのかと怒りを込めて睨見つける
そもそも、生徒と何か話をする時にあんな暗がりの必要があっただろうか
向かい合っていた距離も近かった気がする
放課後の予定まで知っているのは担任だからか?
教師と生徒の距離感てそんなもんだったか?
「高杉、今……なんか色々考えてる?」
ニヤついた声に引き戻されて顔を見る
声と同様、顔まで腑抜けていやがった
「てかアレだな。俺と喋ってる時は晋助って呼んでたのに、本当は晋ちゃんって呼ばれてんだな」
「それがなんだって……」
「いやぁ~別にぃ……ガキみたいだなぁと思って」
さっきからこの教師はおかしい
発する一言一言に棘がある
棘というかこっちの神経を逆撫でするような
それをまともに受け取った俺は、全身が熱くなって停学明けだというのに手が出そうになった
「……俺がアイツにどう呼ばれてようと、お前には関係ねぇだろ」
「ま、そうだけどよ」
ようやく教室を出て、その締まりのない顔からおさらばしようとした後ろで
「気を付けて帰れよ、晋ちゃん。あと……あんま胡座かいてんなよ?」
「あ?」
「慣用句。意味調べたら?」
と、これまた厭味ったらしく意味深顔で言われた
教室を出て、玄関までの道のりをぼーっと歩く
担任に言われた言葉が頭から離れなくて思わず舌打ちが出た
意味なんて調べなくてもわかる
誰が何に胡座をかいてるなんて―――
「晋ちゃん!」
塾へ向けて、先に帰ったと思った零の声が前から聞こえた
外靴に履き替えている零は、ぴょんぴょん嬉しそうに俺に手を振っている
はぁとため息をついて少し下を向いたのは、緩んだ口元を見られたくなかったから
零の視線を感じながら靴を履き替えると、顔を上げた俺に笑顔で言った
「晋ちゃん、一緒に帰ろ!」
「お前……塾は?」
「あー……もう間に合わないかと思って休むって連絡しちゃった」
「お前なぁ……」
「それに!久しぶりに晋ちゃんと一緒にいたかったし!」
鞄を肩にかけて持ち替えると、零を躱して歩き始めた
すれ違いざまに
「悪い奴」
って言ってやったらあからさまに顔を赤くして
「晋ちゃんには言われたくないんですけど!」
と、怒りながら肩を並べて歩き出した
銀八が何を言いたいのかはわかってる
俺が零との関係に胡座をかいて、余裕ぶってるのが気に食わないんだろう
幼馴染という関係性がいつまでも続くと思うなよと警告しているんだ
そうアイツが思うってことはつまり……
ギリッと奥歯を噛み締めると表情が歪んだ
それを察したのかただの天然なのか、零がキョトンとしながらこっちを向いた
「晋ちゃん、お腹空いてる?」
「は?」
「何か食べて帰らない?ハンバーガーとか……あ!スタバで「ハンバーガーで」
食い気味に返すと零が驚いた顔を見せた
でもそれも一瞬で、すぐさま俺の手を取って笑顔で言う
「一緒にご飯食べるなんて久しぶりだね!早く行こ!」
引っ張られた拍子に少し体勢を崩すもすぐに足並みを揃えて歩く
こんなハンバーガー一つで浮かれる零を、半歩後ろで笑ったのは気付かれていなかった
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