溜め込まない方がいいのかもしれない
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『桂さんはねぇ、私達の命の恩人なの!家族の問題に介入している時点でもう大切な家族なの!』
「何をわけのわからないことを……!それなら私だってエリザベスちゃんと仲良しですから!知らないでしょう、エリザベスちゃんのこと!」
キッ!と睨み合っている女達の間に入るのは勇気がいった
しかも何故か俺を取り合っている
松子殿にそう思われているのは不思議だし、まさか零殿がそんな気持ちだったなんて
エリザベスの勘も侮れないものだと内心感心しながら松子殿に向き合った
「落ち着くんだ二人とも!松子殿、俺達はドライブの途中でな。もう行かなければならないのだ」
『そんな……私達が会えた偶然は運命なのではないのですか!?桂さん!』
「こんな俺に運命など使わない方がいい。それに……そなたにはお父様がいるではないか」
『桂さんが相手ならお父様だって喜んでくれるはずです!』
「俺は二人の生活の邪魔はしたくないのだ。わかってくれまいか?」
『桂さんっ……』
「それに……」
ちらっと目配せをして零を見た
そして松子から離れて零に近付くと、そっと腰に腕を回した
「零殿と……ドライブを楽しみたいと思っているのは俺もなのだ。すまんがこれで失礼する」
「桂さん……!」
松子殿とお父様
二人に出会えたことは本当に嬉しかった
これまでもこれからも、二人仲良くやっていって欲しいと心から願っている
そんな想いを込めて頭を下げた
お父様は苦笑いながら見送ってくれた
松子殿はうっすら涙を浮かべて……それでも気丈に見送ってくれた
次にいつ会えるかはわからない
互いの幸せを、健康を祈って停めていた車に乗り込んだ
助手席に座った零殿は終始無言だった
シートベルトを着ける時、タイミングが合って互いに向き合ってしまった
目が合ったが逸らされる
その顔は頬が可愛らしく色付いていた
「あ、あのっ……桂さん……」
「ん?どうした、零殿」
「さっきは……お見苦しい所をお見せして……申し訳ありませんでした」
俯いたまま俺に謝罪して、恥ずかしそうに縮こまっている零殿
さっき見せた態度とはまるで違って、思わず笑ってしまった
「まさか零殿があんなに威勢のいい言い合いをするとはな」
「ちちち違うんです!なんかっ……売り言葉に買い言葉になってしまって……!」
「そうか……なら俺を慕っているように言ってくれた言葉も全て勢いなのか……」
「違います!いや!あのっ……ち、違うけど……その…………」
もっともっと顔を赤くして、狼狽える瞳は最早愛しい
ぷしゅ〜っと音を立てて倒れてしまいそうだったが、背もたれがあるシートだ、問題ないだろう
「違う……の意味を、もっと明確に教えて欲しいのだが」
「なんでっ…………の、喉渇きました!ちょっとお茶飲みますね!?」
あからさまな話題逸らしに黙って動きを目で追った
バッグからお茶を取り出して、勢いよくキャップを開けて口を付けた
「零殿、それは……!」
「ゴクゴクッ……え?なんですか?」
いい歳の大人が気にすることではない
それでも何故か、もしかしたらわざと口にしたのかもしれない
零殿の反応を見たくて
「そのお茶は……俺に飲ませてくれたやつではないか?」
「へ……?」
「間接キスに……なってしまったな」
「!!!!」
これ以上一緒に居られないと思ったのか、零殿がシートベルトを外そうとしている
その手をぎゅっと握り締めて動きを封じた
この時ばかりは流石にこちらの体温もあがってしまった
「海へ行くのではないのか?」
「そ、そうですけどっ……ちょっと風にあたりたくて……」
「窓を開けるといい。すぐに潮風をお届けしよう」
この狭い道でのUターンは、運転初心者にとっては中々に厳しいものだった
それでも零殿に格好をつけたい気持ちと、早く海を見せてあげたいという気持ちが勝って、松子殿が言った通り来た道を戻って行った
窓を開けてそっぽを向いてばかりの零殿は、俺が話しかけても短い返事だけで対応している
それでもわかる
俺に隠している表情は、出発した時とは比べ物にならないくらい高揚していると
サイドミラー越しに見えているのだと、本人が気付いていないそれは秘密にしておいた
「あ……」
「どうしたのだ?零殿」
「匂いが……潮風を感じます!」
ようやく振り向いて俺を見た零殿は、潮風に喜んで顔をほころばせていた
数分後、海岸沿いに出ると水面に太陽が反射して眩しい海が見渡せた
どうなることかと思われたドライブも、終わり良ければ全て良し、美しい景色に心を奪われるだけだった
「綺麗ですね、桂さん!」
「あぁ、時間がかかってしまったが……来て良かった」
久しぶりに見た海の眺めに目を細めてそう答える
海だけではない
俺が目を奪われたのはもう一つ
目の前で微笑むその人をもっとずっと見つめていたいと、勝手に車を停めてシートベルトを外して……助手席にそっと身を近付けた
終……?