溜め込まない方がいいのかもしれない
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『まさかこんな所で桂さんに会えるとは……夢じゃねェだろうな!ははは!!』
豪快に笑うお父様につられて笑みが溢れる
その笑顔を見て再び思う
何も無くて良かったと
こうして二人で暮らせる幸せを手放すことにならなくて本当に良かったと
「あれから仲良くやっているようでなによりです、お父様」
『桂さんに救ってもらった命、懸命に生きてますよ!』
『あら!何が懸命ですか。この前も飲み潰れて帰ってきたじゃないですか、お父様!』
『おい松子!桂さんの前でバラす奴があるか!気ィ遣えってんだバーロー!』
『これがお父様の本性ですからね!助けて損したって顔されてますよ!お父様!』
「いや、そんなことは断じてないが。こんなに仲が良くて安心しているところだ」
『『どこがですか!!』』
父娘のハモリ声で一瞬静まり返る
その後全員ぷっと吹き出して、この上なく幸せな時間がこんな山奥に流れていた
そこに異分子である自覚のある零が、おずおず口を開く
偶然やってきた桂の知り合いの家だったが、今は道案内をして欲しいと声をあげた
「あ、あのっ……桂さん、道を聞かなくていいんですか?」
「おぉ!そうだ、忘れるところだった。すまない、松子殿、お父様。海沿いに出たいのだがここからどう行けばいいだろうか」
『海か?とりあえず戻んなきゃなんねェよ。これ以上行くのは山奥に進むだけだからなァ』
『来た道を戻って逆方向に進めばそのうち出ますよ』
なんとも大雑把な説明だったが、これ以上奥に進むのは望ましくないようだ
そうとわかれば長居は無用
桂の袖をくいっと引っ張って、それとなく促した
「では俺達は行くとしよう。松子殿、お父様、会えて光栄でした」
『なに、もう行くってェのかい?もう少し居たらどうだ、桂さん』
「そうですよ……そんなに急ぐこともないのでは?」
寂しそうに近付いてきた松子が桂の袖を握る
零と逆の腕の袖をぎゅっと握り締めて離さなかった
「えっ……ちょっと……」
『そちらのお連れの方?急ぐようでしたら先に帰られてはどうです?あ、タクシーでも呼びましょうか?来るかわかりませんが』
「ど、どうして私が一人で帰らなきゃいけないんですか!私達は今……ド、ドライブデート中なんです!さっさと桂さんを解放して下さい!」
バチバチバチバチッッ!!
桂を挟んで二人の女の間に火花が散る
え?え?と動揺が隠せない桂を置いて、今ここに女達のバトルが始まった
『散々なドライブデートですね、迷子になるなんて。これは天の思し召しじゃないかしら、二人に縁はないって』
「災難を乗り越えた者同士って結ばれやすいんですよ。ありがとうございます、災難になってくれて」
『そもそも本当にデートなのかしら?貴女がそう過信してるだけじゃないの?運転の練習台でしょ?』
「私が初めて桂さんの車の助手席に座ったからって僻んでるのかしら?たまたま桂さんに会えた貴女には到底叶えられないことだったわね」
聞いていられない醜い争いを繰り広げる二人からジリジリ離れてただ見届けるしかなかった
こんなはずはない
零殿が……松子殿がこんな醜態を見せるはずがない
二人ともそんなキャラではない!!
目の前の現状を受け入れられずに後退りをすると、お父様にぶつかった
慌てて懇願する
この状況を、娘を諭して欲しいと眉間にシワを寄せて
「お、お父様!松子殿を止めてくれないか!」
『桂さん、それは出来ねェよ。どうやら松子の奴……アンタに本気みてェだ』
「はぁああああああ!!??」
『息子が死んで七年……もう十分だろう。松子もこれ以上歳を重ねる前に女として華を咲かせたいんだろうよ……どうだ?桂さん。今夜ここで一発「恥を知れェエエエエ!!お父様の口からそんな破廉恥な言葉は聞きたくない!!」
顔を真っ赤にしてお父様の胸倉を掴んだ
そもそも松子殿の嫁ぎ問題でお父様は線路に身を投じたはずなのに
こんな下世話な話はしたくない、聞きたくない
それに俺はっ……零殿とドライブをしなければならないのだ!!
「零殿!!」
さっきは逃げてしまったが、俺が毅然とした態度でいればよかっただけの話
未だ罵り合い、マウントを取り合う零と松子の間に桂が割って入った
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