ヲタク心に火をつけて
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カートン事変に見舞われたものの、あれから土方さんは毎日欠かさずお店に煙草を買いに来てくれた
店先で煙草を吸う事も増えて、その度にお土産を持ってきてくれる
どんどん宝物が増えて保存方法に頭を悩ませているところだ
もちろん私もお返しをしているわけだが、いよいよその案もなくなってきて、今日はどうしようかと学校の帰り道をぼーっと歩いていた
「ただいまー」
靴を脱いで手を洗いに行く
今日もきっちり身支度をして土方さんを出迎えなければと、洗面台に映る自分に気合を入れた
「零〜!」
「ん?なぁにぃ、おばあちゃん」
「ちょっとー」
なんだろうと声のする方へ歩いていく
寝室ではない
寧ろ店の方から聞こえてきたような
まだ準備が出来てないから店先には出たくないんだけど……
そう思いながらカウンターの裏から声をかけた
「おばあちゃん?どうしたの?」
カウンターの椅子に座って振り向いたおばあちゃん
あのダサいエプロンをして、ニッコニコの笑顔でピースをしていた
「ばあちゃん、完・全・復・活!!」
「―――!!」
ついにこの日が来てしまった
私は怪我をしたおばあちゃんの代理
おばあちゃんの怪我が治るまでのただの助っ人
この日が来ることは確定事項だったのに
「よ、良かったじゃん、おばあちゃん」
無理矢理作った笑顔は引きつっていた
最低の孫だと自分で思う
おばあちゃんの快復を心から喜べない自分がいる
だっておばあちゃんが復帰したら私は……
「零、今までありがとね。助かったよ。今日からばあちゃん、仕事戻れるから」
「そっか……それなら良かった」
もうお店に立つことはない
接客することもない
土方さんに会うことはもうない
「そ、それならそうと言っておいてよね!私準備するところだったじゃん」
「ごめんごめん!何日か様子見てたんだけどね、今日からってさっき決めて」
「とにかく良くなってよかったよ」
「バイト代弾むから!今日からアンタは自由の身よ」
遊びにでも行きなさい!
って……小学生じゃないんだから
何となく部屋に戻れずに、おばあちゃんの仕事っぷりを後ろから見つめる
こうして見るのは初めてかもしれない
早速常連さんがやってきて、身体の具合を気遣う会話をしている
それに笑顔で応えるおばあちゃんは、仕事に復帰出来た事が嬉しいのか生き生きしていた
私の仕事へのモチベーションとは全然違う真っ直ぐな思い
自分の気分でお客さんに向ける態度が変わってしまうダメなバイトだった事を、今さら申し訳なく思った
「はいはい、ありがとうね〜。また来てよ」
話が終わったお客さんが去っていく
丁度いい
私も戻ろう
「あらァ土方さん!久しぶり!」
待ち焦がれていた人物の登場に、足が止まってしまった
せめて声が聞きたい
影からチラッとだけでも拝みたい
「お、ばあさん。身体はもういいのか?」
「ご覧の通りよ!」
脚腰には関係ない二の腕の筋肉をムキッとさせて、身体が万全な事をアピールするおばあちゃん
なんだよそれと微かに笑った土方さんの声に胸が締め付けられた
「マヨボロ二つ」
思わずはい!と言いそうになる
それを拳をぐっと握り締めておばあちゃんに任せる
任せるも何も、本来それはおばあちゃんの仕事であって、私は関係ないのだ
「はいよ、千円ね」
「万札しかねぇや……いいか?」
「もちろん。何気にしてんのさ」
「いや……零の時、そっちの方が簡単かと思って千円札で出してたんだよ」
「相変わらず気ぃ回しの副長だねぇ」
「そんな事ねぇよ。そういや……零は?」
「零かい?さっき中に戻って……って、零!?」
おばあちゃんの後ろに亡霊のように立ち尽くす私を、本当にギョッとした顔で見つめて悲鳴に近い声をあげた
ポロポロポロポロ
いつの間にか溢れてくる涙を拭いもせずに、不細工な泣き顔を晒してしまった
鼻の頭を真っ赤にして、なんなら鼻水も垂れていたかもしれない
それでも涙は止まらず、子供のようにしゃくりあげた
「うぐっ……ひくっ……い、いらっじゃいまぜ……土方、さん……!」
「お、おうっ……って、お前大丈夫か!?」
その声に、余計涙が止まらなくなる
びぇえええんと喚いて収拾がつかない
千円札の事なんて気付きもしなかった
姿が見えない私を気にしてくれるなんて思ってもみなかった
こんな腐れバイトの私でも、土方さんの心の中に居れたと思うと死ぬほど嬉しかった
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