ヲタク心に火をつけて
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「先生!お腹痛いです!」
どれだけそう言いたかったか
けれどそれを言って早退した所で、土方さんが来る時間は変わらない
寧ろ早退がバレた瞬間烈火の如く怒るに違いない
雨の日の怠慢を、直ぐ様見抜いて遠回しに注意してきた人だ
仕事に対してはテレビのままなのかもしれない
それにしても今日は晴れて本当に良かった
雨も結構遅くまで降り続いて、もしかしたら今日にずれ込むんじゃないかと心配していた
毎日来る常連さんだけど、その保証は何処にもない
けれど今日は違う
『明日来た時』と、はっきり本人が言ったのだ
「へへへぇ……」
カウンターに頬杖をついて上の空
不気味な笑い声のせいか、今日はお客さんが少ない気がする
それでも売上なんて知ったこっちゃない
土方さんさえ来てくれれば、私は何だっていいのだから
缶コーヒーは冷やしてあるし、メイクも髪の毛もバッチリ仕上げている
ここに座る為にしなきゃいけないダサいエプロンだけが難点だった
「まだかなぁ……」
来るとは言ったけど何時とは聞いていない
そのせいで無駄にソワソワしてしまう
頬杖を崩してカウンターに突っ伏した
まだかまだかと心の中で唱えながら
「何サボってんだよ」
その声に飛び起きて顔を上げる
待ちわびて、もしかして自分の勘違いかと思い始めたところだった
今日も私を小馬鹿にした笑顔が美しい
約束通り、土方さんはやって来てくれた
それでもふくれっ面を見せてみる
「いつもより……遅かった、ですねっ……」
「ん?まぁな。今日はここで休憩するって決めてただろ?だから少し仕事してきてよ」
「それならそうと……」
言ってくれればいいのに……って、連絡先なんて知らないけどね!
この店の電話番号教えといてやろうか!!
それよりもこの仕事出来る感が堪らない
それでいて約束もしっかり守る辺りが女心を鷲掴みにしてくる
ホント罪作りな人だよ、貴方は
「零、煙草いいか?」
「あ、はい!今出しますね!」
いつものマヨボロを二箱置いて、土方さんがお金を払う
この数日、毎回このパターンでやり取りしている
それでも今日はちょっと違う
「土方さん、待ってて下さい!」
そう断りを入れて、奥の冷蔵庫まで缶コーヒーを取りに行った
ブラックか微糖か、どっちを飲むんだろうと結局二つ手に持って
早く土方さんとの休憩タイムを満喫したい
二人きりで、思う存分見つめていたい
「土方さー…………」
カチッ
火のついたライターを煙草の先端に燻らせて、煙を吸い込んだ後ゆっくりそれを吐き出した
細めた目が伏し目がちで色っぽい
煙草に満足したのか、微かに笑っているように見える
指で挟んだ煙草の灰を、トントンと落としながら戻って来た私に気付いた
「お、サンキュー」
「いえっ……」
色気が凄まじいんですけどォオオ!!
危ない
今のは本当に危なかった
尊すぎて天に召されるところだった
毎日煙草を買いに来てくれてはいるけど、吸ってるところを見るのは初めだった
ホント申し訳ないけど、煙草の何処がいいのと思っている方だから、何が美味しいのかわからないし健康に害を及ぼす物をどうして自ら取り込むのかと疑問に思うくらいだ
だけど……
土方さん、貴方には似合いすぎている
土方さんにとって、至高のアイテムだという事がハッキリわかりました!!
ヨダレを垂らしそうになっている口をむぐっと閉じて、その妖艶な姿を目に焼き付ける
ガンキマリで血眼になった目に、土方さんが話しかけてきた
「零はコレな」
「コレ?」
「はい、コーラ。炭酸飲めるか?」
カウンターに置かれた缶のコーラがコトリと音を鳴らした
「え!?いつの間に!?」
「お前がコーヒー取りに行ってる間に、そこの自販機で」
クイッと親指で指すと缶コーヒーを手に取り飲み口を開けた
それを見てコーラを受け取ると、小さくお礼を言って俯いてしまった
優しすぎて気が利きすぎて、胸が苦しくなる
容姿だけでもご馳走様です状態なのに、何故そんなに中身も紳士なのか
行きつけの煙草屋のばあさんの孫が、慣れないバイトに悪戦苦闘しているのを見るに見かねて優しくしてるだけ
例えそうだとわかっていても、勘違いしそうになる
「学校、楽しいか?」
こんな上辺の世間話ですら、貴方と喋れた思い出になってしまう
「はい、楽しいです」
この空間が、出来るだけ長く続きますように―――
「あ、いたいた。土方さん、何してんですかィ?こんなシケた場所で」
あぁあああんんん!!??
願った瞬間ぶち壊されて、声のする方に思いっきりメンチを切った
「ん?何だお前、やんのかコラ?」
相手もメンチを切ってきて、小さな煙草屋の前で、戦争が起こりそうな雰囲気になってしまった
くりっとした目が瞬時に鋭くなって私を睨みつける
あー……なんだ、この人も見たことあるな
「確か……沖田総悟だ」
土方さんの事を調べるついでに得たどうでもいい情報
若くして一番隊隊長を務める真選組の剣豪
見た目はいいが、ドSで周りを翻弄する人物
見た目はいいが…………
「全く興味なし!!」
「は?」
まだまだ土方さんには及ばないのよ
残念な坊や!
そんな哀れみの視線を送って、貰ったコーラを啜った
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