ヲタク心に火をつけて
名前変換について
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一気に硬直する私
手はほっぺのままだし、合った目は逸らせないし
ただただわけのわからない汗が流れてくる
可愛らしく、愛想良く対応する暇なんてなかった
「い、いらっじゃいまぜっ……」
「……歯でも痛ぇのか?」
「ち、違います!」
笑顔の練習をしてました!なんて言えるわけもなく、大声で誤魔化す事しか出来なかった
本当に来た
毎日来るとは聞いていたけど、本当だったんだ
昨日はそれなりの対応を出来たはずなのに、意識した途端自分が使い物にならなくなって声と手が震える
心の準備もあったものではない
「え、えっと……マヨボロでしたっけ!?」
「あ、あぁ……」
「今日も二箱でいいですか!?」
「それで頼むわ。ちゃんと覚えてんじゃねぇか」
貴方の事だけね!!
と、自慢にならないドヤ顔を押し隠して、ケースから煙草を二つ手に取った
声を掛ける前に千円札が置かれていて、1ターン会話が減った事にヘコむ
それでもありがとうございましたと頭を下げれば、おうと返事が返ってきてニヤついた
「実は昼前に来たんだよ。閉まってたけど」
「へ!?す、すみません!午前中と午後の私が来るまでは店開けれなくて……昨日言い忘れましたっ……ごめんなさい!」
「いや、俺が確認しなかったから悪いんだ。ばあさん怪我したって聞いたのによ」
「いえ、こっちこそ……暫くはこの時間からやってますので……」
「ん、了解。そういや……お前、名前は?」
「え……?零、ですけどっ……」
「そっか……」
受け取った煙草をポケットに突っ込んだあと、更にゴソゴソと中を漁る土方さん
下を向きながら
「虫歯じゃねぇんだもんな?」
と言われて全力で否定した
「お、あったあった」
「?」
「ほら零……飴」
二粒のキャンディーが、お金を置くトレイの上に転がった
「舐めながらでも仕事出来んだろ?」
「え?え?」
「大したモンじゃねぇけど、差し入れ。じゃあな、零」
片手を振って仕事に戻って行く後ろ姿を目で追う
気付かない内に椅子から立ち上がってその姿を見ていた
胸の奥がぎゅーっと締め付けられて声すら出ない
大したものじゃないと言っていたけど、お礼の一つも言えなかった
トレイに乗った飴を見つめる
珍しい味とかじゃない
何処にでも売っているマスカットと桃の味のやつ
なんなら本人が買ったなんて思えない物
きっと誰かに貰って、そのままだったやつじゃないだろうか
それでも
「か……か…………家宝じゃァアアア!!」
興奮のあまりトレイを天に掲げていた
はぁはぁと怪しい息遣いになっていたが、この飴をどうしようか思案する前に、もっと重要なことがある
『じゃあな、零』
鼓膜が血溜まりになりますけどォオオ!!
急に名前聞かれて呼ばれてっ……なんなのこの世界線!!
おばあちゃん、怪我してくれてありが……これ以上は人として孫としてやめておこう
とりあえず落ち着け私
よく考えろ
昨日まで特に興味無かったじゃないか、土方さんに
ちょっと顔見知りになったくらいで何を浮かれてるんだ
生で見たら思ったより顔が良くて声が良くて、落ち着いた雰囲気で意外と物腰も柔らかくて、飴なんかもくれる気遣いを持ち合わせていて…………
畜生!ドストライクじゃないか!!
そんな人に名前を呼ばれたら浮かれるのも無理はない
結局そこに辿り着いて自分を納得させる
鼻血を出さなかった事を褒めたいくらいだ
「また明日……来るのかな」
何かお礼を考えないと
とりあえず飴は冷蔵庫に入れて保存しようと、練習では出来なかった笑みをそれに向ける
私のヲタクへの扉が静かに開いた
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