ヲタク心に火をつけて
名前変換について
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怪我が治ったばかりのおばあちゃんに気を遣われて、椅子に座って鼻をかむ
ずびびびっ!と激しい音を鳴らしながらティッシュをあてがう姿はもう恥じらいもクソもない
ここまで醜態を晒したんだ、最早怖いものなんてなかった
「落ち着いたか?零」
「うぐっ……」ぶわ!!
「!?」
土方さんの声だけには敏感で、名前を呼ばれれば感極まってしまう
いつまで経っても泣き止まない私に、土方さんはオロオロ動揺を隠せない
おばあちゃんも何がなんだかというようにため息をついていた
「零、どうしたっていうの。いきなり泣いて」
「だからっ……何でもないんだってば……」
そんなわけあるかと頭を小突いて、真意を探ろうとしてくるおばあちゃん
何か聞き出しそうとしているが、土方さんの前で喋れる内容ではない
土方さんの視線も痛いし、俯くしかないのだ
「何か……やなことでもあったのか?」
「っ…………」
嫌なこと……大アリです
貴方に会えなくなるのが確定したのです
その顔を見ることも、声を聞くことも、数日前と同じテレビの中だけになってしまうのです
どうでもいい私の学校の話も、沖田総悟への愚痴も、何も話せなくなるんです
そんなの嫌すぎる
「ホント、難しい年頃だねぇ……」
ポンポンと私の頭を撫でてなだめようとしているおばあちゃんは、困った顔をしたまま首を傾げている
そりゃそうだ
孫がいきなり泣き喚いたら心配するだろうに
ぐちゃぐちゃになった顔をティッシュで拭き取って、心配している二人を何とか安心させようと前を見る
不安げに私を見つめる土方さんは、いつにも増して王子様だった
こんな時でも男前かよ!!
ぐぬぬっ……
震える唇を噛み締めて何とか堪える
これが最後かと思うとまた涙が浮かんでくる
そんなの嫌だっ……
これっきりなんて絶対嫌!
こんな事で推しを愛でられなくなるなんて耐えられない!!
「おばあちゃん!!」
急に呼ばれて肩をビクつかせるおばあちゃん
年寄りに急に大きな声はダメだと叱られたがそんな事を気にしている余裕はない
ごめん、おばあちゃん
こんな孫で
それでも私の気持ちを聞いて欲しい
どうかお願いします
「おばあちゃん……私にバイト続けさせて!」
「えぇ!?」
おばあちゃんから見れば、このバイトは私が嫌々引き受けたと思っているはずだ
愛想も良くないっておばあちゃんも私も思っていた
気分で接客態度も変わってたし、正直接客業は向いてないって今でも思う
それでもこの仕事だけは続けたい
動機が何であれ、これは立派な推し活なのだ
土方さんを愛でる為には必要なことなの
「お願いします!!」
孫が急に敬語を使って頭を下げてくる
驚きを通り越して焦っているおばあちゃんはしどろもどろになってアタフタしていた
土方さんも話の行方を見守るつもりなのか、その場で黙って私を見ていた
推しに見つめられる私……ここは天国かな?
「いやっ……別にいいんだけど……どうしたの零」
「えっと……心境の変化といいますか……なんか……仕事が楽しくなっちゃって」
「零がそんな気持ちになるなんてね……ばあちゃんは全然構わないよ」
嘘は言っていない
不安だった初日に貴方に出会って、それから毎日楽しくバイトをしていた
それもこれも今目の前にいる土方さんのお陰だ
貴方がいるから、推しがいるから頑張れる……推しって尊い!!
感謝の眼差しを土方さんに送るも意味は伝わっていない
いいの、それで
全然一方通行でいいの、私!
私からのキラキラキラ〜な視線を受け取った土方さんは、とりあえず良かったなとお祝いなんだかよくわからない言葉を私にくれた
これで貴方に会える機会を確保出来ました!
終わり良ければ全て良し!!
晒した泣き顔なんてもう忘れた
もちろん仕事は頑張るけど、それはやっぱり土方さん次第で……
「あ、あのっ……土方さん」
「なんだ?零」
「これからも変わらず……煙草買いに来てくれますか!?」
「……当たり前だろ、何言ってんだ」
「良かったぁ!」
ぱぁっと明るくなった私の顔を見て、土方さんも優しく笑ってくれた
ああああ!!今日も今日とて美しい
貴方の為なら嫌な客が来ても耐えられる気がする
ホクホクの満足気な表情で土方さんを見つめた
「ははぁん……そういう事」
話が解決したということで、席を立っておばあちゃんにそこを譲る
とりあえず今日はおばあちゃんにそのまま続けて貰うことになった
また明日から土方さんを待つこのひと時が訪れる
今日は安心して眠れそうだ
「いやぁ……零がこんなに働き者だなんて、ばあちゃん知らなかったよ」
「働き者って……そんな褒めないでよ」
「いいや!仕事が楽しいだなんて、あんたの歳じゃそう言えないよ?ねぇ土方さん」
「全くだ。見てみろよウチの総悟を。仕事舐めてるとしか思えねぇ態度だろ?」
「まぁ……あの人はそうですね」
ふふっと笑って、ここにはいない沖田総悟を貶める
きっと今頃くしゃみをしているはずだ
「こりゃ将来有望だねぇ。どうだい?土方さん」
「ぁん?何が」
「うちの孫……嫁候補にどうだい?」
「おおおおおおばあちゃん!?」
何処からそんな話の流れになったのか、慌てておばあちゃんの言葉を遮る
ニヤニヤしているおばあちゃんは私の何もかもを悟ったようだった
「零か……」
顎に手を当てて本当に考え込んでいる土方さん
いいから!そんな無駄なこと考えなくていいから!!
チラッとこっちに視線を向けた土方さんと目が合う
瞬間、顔が燃えるように熱くなった
じーっと品定めしてくる土方さんの視線が痛い
そんなに見つめられたら溶けてしまうわっ
「どうだい?副長さん」
伸びてきた大きな手が私の頭を包んだ
「考えとく」
鬼の副長らしからぬ柔らかな笑顔を向けられて、私の頭は煙を上げてショートした
「おばあちゃん!なんなのさっきのは!」
「何って……ナイス後押しだったでしょ?」
「後押しって……土方さんはそういうんじゃないから!!推しだから!!」
「推しだか何だか知らないけど、結局好きってことだろ?アピールしといて損はないよ!」
「明日から気不味いじゃんっ……!」
「……なら辞める?バイト」
「続けさせてもらいます」キリッ
こんな好条件の推し活なんて巡り会えるものじゃない
それを逃すなんざヲタクのすることじゃないから
そう意気込んで鼻息を荒くする
明日に備えて、今日は早く寝よう
バイトは午後だけど
目を閉じて眠りにつくのを静かに待った
土方さんは…………推し、だよね?
終
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