雨宿り
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今日の足音はぴちゃぴちゃと静かだった
あの日はぐちゃぐちゃだかドロドロだかわけがわからない程汚かった
そんな可愛い音を鳴らしながら近付いてくる坂田さん
本当に会えるなんて急過ぎて、目を見られなかった
「何してんの?」
「え!?いやっ……その……」
雨宿りと言いかけて止めた
今自分が手にしているのは紛れもなく傘だったから
しかもその傘を見つめられている
何かが終わった……そう思った
「……その傘、壊れてんの?」
「へ……?」
思いがけない言葉に声が裏返る
絶妙な勘違いをしてくれた事を感謝して、慌てて同調した
「そそそそうなの……!こんな時にやんなっちゃうっ……」
明らかに不自然なセリフ口調に絶望した
もっと上手にやんなさいよ!とツッコんでみてもどうしようもない
坂田さんになんて思われただろう
挙動不審になって目が泳いだ
「しょうがねぇな……」
ボソッと呟いたかと思うと腕を伸ばされた
影の中に入る私
少し見上げる
あの時より優しい笑顔で言ってきた
「入れよ。帰ろうぜ、一緒に」
また腰を抱かれて二人の距離が近付いた
傘に当たる雨粒が無言の二人を取り持っている
話したいけど話せない
緊張と恥ずかしさで上手く言葉が出てこない
ドキドキ心臓が煩くて、頭も働かない
さっきの失態もあるし、口を開けないもどかしさが零を悩ませている
雨に濡れているわけじゃないのにこんなに近付いていいんだろうか
俗に言う相合傘なんて、私がしていいんだろうか
横の坂田さんは何も意識していないみたいだけど
見上げた横顔が綺麗で息を飲んだ
ずぶ濡れ状態とは違う、知らない表情に見惚れてしまった
「……あんま見んなって」
「ごごごごめんなさいい!!」
気付かれていて素早く顔を逸らす
真っ赤になって、なんだか涙目にもなって、こんな顔を見られませんようにとずっと下を向いて歩いていた
「じゃあまたな、零」
玄関先まで送り届けてくれると呆気なく帰ろうとする坂田さん
もう少し一緒にいたい
引き止めたい
けれどお茶でもと誘う勇気はない
手を上げて背を向けた坂田さん
行ってしまうと思うと声を出していた
「あ、あの!!」
結構なデカい声に振り向く
目を丸くして驚いた表情が可愛かった
「ちょっ、ちょっと待ってて下さい!」
素早く鍵を開けて中へかけ上がる
持っていた傘は放り投げた
それこそ壊れたかもしれない
それでもそんなことはどうでもいい
アレは何処だっけ
お母さんが送ってきてくれたお菓子!
故郷の銘菓が未開封のまま放置されていたはず
どうか賞味期限切れてませんように!!
冷蔵庫を開けるとそのお宝は一際輝きを放って置かれていた
ガッと掴んで賞味期限を確認する
お母さんありがとうと謎の感謝を心の中で言うとバタンと閉めた
「さ、坂田さん……甘い物はお好きですか!?」
息を切らせて戻って来た零にちょっと引きながら
「す、好きだけどっ……」
そう言いながら箱を受け取った
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