ヴィル監
もぞもぞと布団の上から体を触られているような違和感を覚え、目が覚めた。
「……ぐりむ?」
「……そうよ」
にゃあんなんて相棒にしては低い声で返される。
「ぐりむはにゃあんなんていわないです……」
「さびしいのよ。構って欲しいの」
とびきり切なく囁かれると、パジャマの下に手のひらを突っ込まれた。ひんやりとした感触に思わず体がはねた。さわさわとお腹を撫で回しながら、真夜中の客人は布団に侵入してきた。微かに薔薇の香りがする。すっかり嗅ぎ慣れたその匂いはヴィル先輩のお気に入りのシャンプーの香りだ。お腹を触る手とは反対の腕がいつのまにか私の肩を抱き寄せ、ヴィル先輩と向かい合う形になった。ヴィル先輩は私の頭に顔を埋めて、ほっとため息を吐く。
「アンタを触っていると落ち着くわ」
いつもの彼なら会いたい時は必ず連絡を寄越してくれるはずだ。それなのにこんな時間に、やってくるだなんて。美容に誰よりも厳しい彼のことだ。余程のことがあったのだろう。
「何かあったんですか」
ヴィル先輩の背中を撫でる。思わず抱きつきたくなる彼の広い背中が大好きだ。けれども今はなんでも背負い込んでしまうその背中を憎く思う。私の両腕では彼の苦悩を支え切れることはできないのだろうか。
「なんでもないわ」
「なんにも?全然?」
「そりゃあ、日々色々起こってるわよ。嫌なことなんて数え始めたらキリがないわ。そういうのはなんとかできちゃうのよ」
その時はねと言葉を切るヴィル先輩。
「今に始まったことじゃない。時々あるのよ、耐えきれない夜が」
私をぎゅっと抱きしめる力が強まった。時々あったというこの夜を、彼は私と出会う前はどうしていたのだろう。ひとり眠れぬ夜を過ごしていたのだろうか。真珠のような涙を静かに流して?それとも今宵のようにぬくもりを求めて誰かの寝台に忍び込んだりしたのだろうか。あらぬことをもんもんと考えていると「アンタと出会ってからひとりじゃ耐えきれなくなっちゃったじゃない」独り言のようにヴィル先輩が呟いた。責めるような口調だが、どこか安堵している自分がいる。
「責任ならちゃんととりますよ」
「……今の寝言だなんて言ったら怒るわよ」
「ちゃんと目は開いてます」
「あらそう、言ったわね。一度拾った猫は最後まで面倒みないとダメよ」
それなら随分と大きな猫がいたものだと、返事をする代わりにヴィルさんの頭を撫でた。
朝目が覚めるとヴィルさんはいなくなっていた。夢だったのだろうか。そうだとしたらなんて都合の良い夢だろう。ふとベッドサイドのテーブルに目をやると、上品な薄紫色のカードが置いてあるのに気がついた。『夜は鍵をかけておかなきゃダメよ あなたの愛猫より』
「……ぐりむ?」
「……そうよ」
にゃあんなんて相棒にしては低い声で返される。
「ぐりむはにゃあんなんていわないです……」
「さびしいのよ。構って欲しいの」
とびきり切なく囁かれると、パジャマの下に手のひらを突っ込まれた。ひんやりとした感触に思わず体がはねた。さわさわとお腹を撫で回しながら、真夜中の客人は布団に侵入してきた。微かに薔薇の香りがする。すっかり嗅ぎ慣れたその匂いはヴィル先輩のお気に入りのシャンプーの香りだ。お腹を触る手とは反対の腕がいつのまにか私の肩を抱き寄せ、ヴィル先輩と向かい合う形になった。ヴィル先輩は私の頭に顔を埋めて、ほっとため息を吐く。
「アンタを触っていると落ち着くわ」
いつもの彼なら会いたい時は必ず連絡を寄越してくれるはずだ。それなのにこんな時間に、やってくるだなんて。美容に誰よりも厳しい彼のことだ。余程のことがあったのだろう。
「何かあったんですか」
ヴィル先輩の背中を撫でる。思わず抱きつきたくなる彼の広い背中が大好きだ。けれども今はなんでも背負い込んでしまうその背中を憎く思う。私の両腕では彼の苦悩を支え切れることはできないのだろうか。
「なんでもないわ」
「なんにも?全然?」
「そりゃあ、日々色々起こってるわよ。嫌なことなんて数え始めたらキリがないわ。そういうのはなんとかできちゃうのよ」
その時はねと言葉を切るヴィル先輩。
「今に始まったことじゃない。時々あるのよ、耐えきれない夜が」
私をぎゅっと抱きしめる力が強まった。時々あったというこの夜を、彼は私と出会う前はどうしていたのだろう。ひとり眠れぬ夜を過ごしていたのだろうか。真珠のような涙を静かに流して?それとも今宵のようにぬくもりを求めて誰かの寝台に忍び込んだりしたのだろうか。あらぬことをもんもんと考えていると「アンタと出会ってからひとりじゃ耐えきれなくなっちゃったじゃない」独り言のようにヴィル先輩が呟いた。責めるような口調だが、どこか安堵している自分がいる。
「責任ならちゃんととりますよ」
「……今の寝言だなんて言ったら怒るわよ」
「ちゃんと目は開いてます」
「あらそう、言ったわね。一度拾った猫は最後まで面倒みないとダメよ」
それなら随分と大きな猫がいたものだと、返事をする代わりにヴィルさんの頭を撫でた。
朝目が覚めるとヴィルさんはいなくなっていた。夢だったのだろうか。そうだとしたらなんて都合の良い夢だろう。ふとベッドサイドのテーブルに目をやると、上品な薄紫色のカードが置いてあるのに気がついた。『夜は鍵をかけておかなきゃダメよ あなたの愛猫より』