ライムライト・ミュージック/+Jazz
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黄色い月明かりに誘われて、月が良く見える訓練場まで行きたくなった。
ミニメイフェア姿にトランスフォームし、冷たい追い風に身を任せアスファルトを走ると、到着した目的地の中心には、すでに先客がいた。
先日の訓練時にメガトロンの流れ弾に当たってスクラップになってしまった車(トランスフォーマーではない普通の乗用車)の上に腰かけた彼は、調子っぱずれなハミングをしながら夜空を見上げている。
どうやら彼と私の目的は一致していそうだ。
ロボットモードに変形し側へ行くと、その音で私に気付いたらしい。
彼はニヤける顔を隠そうともせず、カメラアイを細めると、膝に頬杖をついて、5センチほど上から私を見下ろした。
《こんばんは、ジャズ。夜中にこんな所にいるなんて珍しいですね。いつもスリープモードでぐっすりなのに》
《知りたいかい?マイクイーン。…ここで待ってたら、運命の人が来てくれるって月が教えてくれたのさ》
《"クイーン"はやめてっていつも言ってますよね》
《ごめんって》
やれやれという気持ちを滲ませて"女王様"呼びを咎めるも、ジャズは反省の色を見せずにヘラヘラとしていた。
センチネルの暴挙を共闘して止めたことで、永きに渡った両軍の戦いが終わり、ディセプティコンの残党と戦う組織として私たちの存在が政府に認められた後も、ジャズと私が恋仲になってからも彼の態度は相変わらずだ。
私より歳も戦績も上なのに、彼はオプティマスのような大人っぽい話し方ではなく、歯の浮くようなセリフを好んで選ぶ。
陽気で優しいところはジャズらしいといえばらしいし好きだけど……。
彼にはいつか、砂糖のように甘すぎる言葉の数々で、スパークが不整脈を起こしてしまう私の気分を味わって欲しいものだ。
ここまでくると、戦闘続きで色恋事に慣れてない私をわかってやっているようにしか思えなくなる。……嫌じゃないけれど。
《どうする?今ならBGMを俺の歌声か、ラジオのちょっと物足りない音楽かで選べるけど》
《ラジオでお願いします》
《つれないなあ、ダーリン?》
《もう、茶化さないでください。基本のステップはちゃんとインストール出来たんですか?》
《もちろん。そう言うスピカは?》
《とっくに終わってますよ》
《さっすが〜》
お互いのボディを軽く小突き合うと、金属の乾いた音がだだっ広い訓練場に木霊した。
気に入るナンバーが中々見つからないらしく、ラジオのチャンネルをひっきりなしに変えて格闘しているジャズを放置して、先程インターネットから引っ張ってきたステップを練習していると《これにしよう!》なんて無邪気な声が聞こえてきて笑いが零れた。
グロッケンの可愛らしいメロディとオルガンの伴奏にピアノが混じり、2小節くらい後、一気にボーカルとベースなどのバンド楽器が歌い出す。
"Dancing in the Moonlight"
というフレーズが何度も出てくる、オシャレで明るい、ゆったりめな曲だ。
聴いていると自然に体が揺れ、ツーステップでリズムを取りたくなってしまう。
満月の明かり──黄色いスポットライトを浴びて、2人だけのステージに立つ私たちに、なんともピッタリな選曲だと思った。
《素敵な曲ですね》
《気に入って貰えたみたいでよかったよ。さあ、お手をどうぞ女王様。俺と一緒に踊りましょう?》
《もう……喜んで》
キャッチーな音楽のせいで、懲りないジャズに同じ文句を言う気力も奪われてしまう。
もしかしたらこれもジャズの作戦なのかもしれない。
恭しいお辞儀で手を差し出してくる恋人に便乗して、カーテシーを返して手を取った。
繋いだ手を誘導されジャズの腕の下でくるくると回転すると、それが開始の合図であったかのように私たちは向かい合って肩や腰に手を当てた。
音楽に合わせてステップを踏み、訓練場を自由に動き回ると段々調子が出てきて、エネルゴンを飲んでいるわけでも、とびきりのジョークを聞いたわけでもないのに、お互いの目が合う度に、酔っ払ったみたいに満面の笑顔を見せあって笑い声を上げた。
余裕そうなジャズのペースを崩してみたくてわざとビートからズレてターンすると、まるでそれが、予め示し合わせておいたかのような動きでカバーされ、裏拍のステップの切り替えに利用される。
逆にジャズが悪戯っぽく笑うと《なにか仕掛けてくるな》というのが前もってわかっていたから、私も彼のペースに飲まれることは無かった。
結んだ両手を離して私は左手を、ジャズは右手を重ね合わせ横並びになると、掛け合いをするようにステップを踏んだ。
私が小石を蹴り上げるような振り付けをすると、ジャズは飛んだ小石を受け取るような仕草で応えた。
背中を向ければ、彼はすかさず後ろから私の肩と片手に触れてエスコートしてくれた。
思いつく限りに理不尽なステップをして、頓珍漢なダンスを踊ってみてもジャズは涼しい顔で合わせてくる。まるでジャムセッションみたいだ。
私の即興にジャズがどう合わせてくるか終始わくわくしていた。彼の次のフォローがまるで予測出来なかった。
私たちを追いかけるスポットライトが、2人の影を伸ばす。
時間はあっという間に過ぎていった。
─ ✧ ─
てっぺんにあった月がここへ来た時よりも傾き、西側の空からふたりを照らしてくれている。
趣向を変えてアップテンポなロックでハジけていた私たちは、巻いていた紐が解けて螺旋を描く独楽のように踊ったのを皮切りに、お互いの切れた排気を整えるために言葉を交わす事にした。
ジャズの中枢部から流れる曲が切り替わると、男性のテノールが甘いラブバラードを口ずさみはじめ、その雰囲気に合わせてラジオの音量が絞られる。私たちは自然にチークダンスのフォームをとっていた。
《こうして踊るのもいいけど、やっぱり俺の美声を聴かせてあげたかったよ。オリジナルのラブソングなんだぜ?》
おどけながらジャズが言った。
《作ったんですか?すごいですね》
《聴いたら、魔法にかけられたみたいに俺をもっと好きになるよ。ホントさ》
《……ちょっと聴きたくなったかも》
《マジ?……んーでも、ご褒美があったらもっと上手に歌えるかもな〜キスとかさぁ〜〜?》
《……もしかして、最初からそれが目的で本当はオリジナルソングなんて歌えないんじゃないですか?》
《あーあ、バレた?》
ケロッと白状した下心丸出しの恋人に排気が漏れるが、実は私も満更じゃない。
《あ、キスしたそうな顔になってきた》
《なっ、うるさいですっ》
《はは!そんな、顔にオイル集めながら怒ったって怖くないぞ》
《き、きゃーっ!》
腰と太ももを支えに突然持ち上げられ、バランスを崩した私はジャズに凭れるようにして両腕を首に回す。思わずお腹の底から叫んでしまった。
ジャズがその体制のままクルクル回りだしたから、遠心力で膝から下の脚がぷらぷらする。楽しいけど勢いが凄い!
《きゃぁあああ!!》
《あははは!すっげえー声量!》
《笑い事じゃないです!》
《ごめんごめん》
徐々に減速して残像になっていた風景が制止すると、口から飛び出してしまいそうなほどバクバクだったスパークが落ち着いてほっと排気する。
《可愛いねぇ、俺の女王様は》
未だにニヤニヤしている顔が憎たらしい。
私の反応を見て楽しんでるんだ。
やられっぱなしなのが悔しくて、仕返ししてやりたくなって。
私は、ジャズを見下ろしていた顔を、彼にふっと近付けた。
《!》
背をかがめてキスしたら、私に触れるジャズの手がぴくりと跳ねた。良い反応。不意打ちにちゃんと驚いたみたいだ。
重ねて、食んで、堪能してからそっと顔を離すと、虚を突かれてきょとんとしたオプティックが私を見上げた。
《きゃっ》
ボディに回った腕に力が込められ、ぎゅうと隙間が無いほどきつく抱きしめられる。
首筋にジャズの顔が埋まると、顔のパーツが当たってくすぐったかった。
《……ずるい》
《仕返しです》
囁きながら後頭部を撫でると、また体が跳ねる。いつも余裕な彼が私に翻弄されてるのが可愛くて仕方ない。
《……魔法にかかっちゃいました?》
イジワルっぽく聞いてみた。
《……とっくの昔にかかってた》
今度は私が魔法にかけられる番だった。
*_*_*_*_*_*_*_*_*_*
fin.ライムライト・ミュージック
スピカ様、リクエストありがとうございました!
少しでも満足して頂けたら幸いです^^
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