It's all yours /+Soundwave
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自室に戻ってきた事で気持ちがなんとか落ち着いたため、しっかりしろと自分を叱咤してから、部屋で待つ彼女を迎えに行くために立ち上がった。
部屋の手入れと、例の花の配置が完璧なのを再確認してから、部屋を出てアメジストの部屋のドアを叩くと、出てきた彼女は第一声で俺を心配した。
2ヶ月ぶりに彼女の優しさを感じ、尚且つ、自分が以前抱いた"自分と彼女とでは気持ちの重さは違う"という不安がショックウェーブによって払拭されていたため、素直に中枢部の奥深くからじんと、彼女を愛おしむことが出来た。
人間の眉に近いパーツを八の字にする彼女を安心させる言葉を送り手を差し出すと、彼女は照れくさそうにはにかんで、恐る恐るといった仕草で俺の掌に自身のそれを乗せた。
アメジストの手を引いて部屋から連れ出すと、指をひとつひとつ絡め恋人繋ぎをする。
隣に並んだ彼女は終始恥ずかしがって言葉を失っていて可愛かった。
自室の前に戻ってきて、セキュリティの掛かった扉のロックを解除するために一時的に手を離すと、彼女が重たくなっていた口を開いた。
《見せたいものって、なんですか?》
暗証番号を打つ手をぴたりと止めると、一度オプティックを閉じてあの日の光景を思い返した。
体表面で観測した、俗に言う凪いだ風。
一面緑色に染まった木々を抱えた丘と、そこでバラに目を落とすアメジスト。
眼前に咲き誇る花に目を細め、口角は柔げられ、彼女が纏う雰囲気全体が慈愛に満ちている、あの時の表情。
俺がこの世で最も愛している女によって作られる俺の幸福。
計画が成功すればきっと、自分に向かってそれが向けられる。
すっとオプティックを開くと、俺は頭一つ分下にある顔を見下ろして言った。
《お前の為だけの世界だ》
最後の番号を打ち込むと部屋のドアがサッと開いた。
首を傾げるアメジストを部屋に入るように促すと、彼女は1歩1歩踏みしめるように中へ入り、そして中の光景を見ると息を飲んだような顔をして、部屋の中心へ来ると首をキョロキョロ動かしながらその場でくるくると回り、部屋中で咲き乱れる多彩な宝石の花たちに目を輝かせていた。
ダイヤモンドのユリ、シトリンのフリージア、クンツァイトの牡丹、サファイアのアイリス、タンザナイトのアナベル、ターコイズのポピー、ピジョンブラッドルビーのバラ、エメラルドのアナスタシア──そして、アメジストの桔梗。彼女の石だ。
その他にも様々な花を模した宝石が、暗くなった室内で下から、上から、横から、様々なライトで照らされ、今の彼女のオプティックと同じぐらい、星のようにキラキラ輝いていた。
彼女はアメジストの花に歩み寄ると、そっと、壊さないように、傷つけないように指先を触れた。
カロン、と鉱物特有の硬い音が、彼女の指と小さく衝突したことで鳴る。
彼女は片手に収まる程の大きさのそれを、ゆったりとした動作で両手に掬いあげ、自らが触れても事切れない宝石の花をまじまじと見つめていた。まるで彼女の手の中で花が芽吹いたようだ。
先程まで沈んでいた気持ちを完全に忘れるくらい、彼女の反応に満足感でいっぱいになる。苦労した甲斐があった。
《アメジスト。実は……》
彼女の前に向き合い、目を見ながら事の次第を説明する。
どうして俺がこれを用意したのか、離れている間俺がアメジストを恋しく思っていたことや、ショックウェーブから彼女の抱えていた不安を聞いたことまで、包み隠さず明かした。
《つまり…》
アメジストが自室に入ってきて初めて言葉を発したものだから、特別なことでもないのに肩がびくりと跳ねてしまった。
ショックウェーブから話を聞いてしまった、という後ろめたさも関係していただろう。
俺の聴覚回路は、例に漏れず過敏になっていた。
《つまり……サウンドウェーブ様は、触れたら傷つけてしまうのが嫌な私のために、この花たちを用意してくださったんですね……?》
《そうだ。……不安にさせてしまって、すまなかった。花は、気に入ったか?》
おずおずと尋ねた。
彼女の顔は唖然とした物から、みるみる満面の笑みに変わっていき、何も言わずとも俺に彼女の心全てを訴えかけていた。
そのどこまでも晴れ渡る晴天のような表情には、もう一片の不安もないように感じた。
《とても。……とても、素敵です。ありがとうございます》
念を押すような声色は、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
気付けば俺は彼女の頬へ手を伸ばしていた。
今度は彼女が肩を跳ねさせる番だった。
《ショックウェーブにも言われただろうが……。俺はお前にどんなことを頼まれようが、求められようが、負担に感じることも、迷惑に思うことも決してない。もっと甘えていい。我儘も言ってくれ。俺たちは……恋人、なんだからな》
親指の腹で頬を撫ぜると、耐えきれないように彼女が顔を伏せた。触れている場所の金属パーツが少し暖かい。……というか、温度は、下がる兆候を一切見せずに、微々たる数字だが上昇の一途を辿っている。
本格的に心配になって声を掛けようとして、それを自分のものではない声に遮られる。アメジストの蚊の鳴くような、か細い声だった。
《……す、》
《?》
彼女の言い淀む姿も、聞き取りずらい音量で口から発されるもごもごとした呟きも珍しい。俯く顔に屈んで近付くと、やっと彼女の声が認識できた。
《抱きしめて、ほしい…です》
言い終わるや否や触れた部分がいっそう熱くなり、見えない彼女がどんな感情になっているのか理解した。
しかし、初めての我儘が、こんなささやかで可愛らしいものだったとは。
慎ましやかな願望を遠慮がちに述べた彼女への激情に駆られ、胸がはち切れそうだ。
それに、俺が彼女を抱きしめたいと思っていたように、彼女も同じことを望んでくれていたという事実に、嬉しさも感じる。
《あ…》
もはや俺も耐える必要はあるまい。
アメジストをさらうように抱き寄せ、腕の中に閉じ込めると、彼女の小さな声がした。
《俺からもひとつ、お前に我儘を言っていいか》
《…はい》
彼女の両腕が俺の背中に回った。
体格差があるため添えるような手つきだったが、それで十分満たされた。
《これから先もずっと、傍に居てくれ》
《ふふ、もちろんです》
こちらを見上げた彼女が今日1番の笑顔を見せ、俺はそこへ吸い寄せられるように顔を寄せていた。
戦闘時はマスクで覆われてしまう彼女の唇は俺と同じ金属製で、人間のように粘着質な音を奏でることはなかった。
重なった唇から鳴ったのは金属の擦れ合う音だけだ。
優しく触れ合った後にゆっくり顔を離すと、アメジストはしばらく呆然としていたが、キスをされたと漸く理解すると《不意打ちはずるいです》と恥ずかしそうにしていた。
《それなら、今度は予告しよう。……キスしてもいいか》
彼女は答える代わりに、俺の方へ背伸びをした。
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fin. It's all yours
アメジスト様、リクエストありがとうございました!
お気に召す出来栄えになっていれば幸いです。