It's all yours /+Soundwave
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《別行動、ですか》
以前倒して回収した敵トランスフォーマーのスクラップを整理していたアメジストの手が止まった。
戦時中から今までずっと、俺の忠臣として働いてきたから突然の申し出に驚いたのだろう。オプティックが丸くなっていた。
《ああ。人手が欲しいとショックウェーブから言われてな。しばらく手伝ってやってほしい》
真っ赤な嘘だ。
本音を言えば誰の所にも寄越したくないし彼女の事は独り占めしたいのだが、例の名案を準備するには2ヶ月ほどひとりで作業する必要があるのだ。
彼女に隠さず、表立って準備することも考えたが、常に傍にいられるメリットよりも用意した物を渡した時の反応が薄れてしまうデメリットが目につき、渋々サプライズをするという選択をした。
もちろん、ショックウェーブにアメジストを預けたいと頼んだ時は《絶対に俺のアメジストに手を出すな。そして計画がバレないように徹底しろ》と念押しするのも忘れなかった。
《承知致しました。ですが、何かあればすぐに駆けつけますので、御用がありましたらお声掛けください》
《ああ、そうさせてもらう》
アメジストが何の迷いもなく引き受けそそくさと執務室から去る用意をしだした為、自分の好意が彼女より重く、釣り合っていない気がして侘びしく思う。
《それでは、失礼します》
《しっかりやれよ》
《必ずや》
トランスフォーマーでも出入りが可能な巨大な自動ドアが開閉し、部屋に1人取り残される。
アメジストは決して騒がしい方ではない。俺も無駄口は好まないため、ここで二人でいる時は、用事がある時以外あまり会話をしない。
だが、1人になった今、この部屋はいつも彼女の存在があってこそ、心地よい空間になっていたのだと実感する。
虚しくなりそうな気持ちを切り替え、材料調達のためにとある人物へメールを作成する。
レノックスに任されていた仕事を片付けながら待つこと数分。
返ってきたメールを開き、そこに書かれた文字を見て俺は大きな排気を漏らした。
─ ✧ ─
サウンドウェーブに命じられ、アメジストが俺の元で働きだして2週間が経過した。
情報参謀兼戦闘員であるサウンドウェーブといる時は、オートボットとの終戦協定に離反した元ディセプティコン兵士たちの情報収集や戦闘任務などを主としていた為、科学者である俺の元で助手として働くのは最初は慣れない部分もあったようだ。
1度しか教えてないのだから、分からない部分を放置して仕事をされるよりは、質問してくれる方が良いと言ったが、その度に彼女は、
《お気遣い頂きありがとうございます。しかし、私が1度で覚えられず何度もショックウェーブ様に質問してしまうのは、単純に私の物覚えが悪いからです。サウンドウェーブ様直属の部下として、彼の顔に泥を塗るような行為は許されないのに、こんなではいけませんよね。至らず申し訳ありません。精進致します》
…と自分を追い込んでいた。
終戦前からアメジストと会話することはあったものの、こうして共に仕事をする機会は片手で数える程しか無かった(サウンドウェーブが束縛気味なほど彼女を他の誰かと組ませるのを嫌がった)から、間近で彼女の心構えや働き方を見て感心する毎日である。
きっと彼女のこうしたストイックな部分が結果としてメガトロン様に一目置かれる要因となっていたのだろう。
最近は俺に聞き直さなくてもスムーズに仕事をこなせるようになってきたし、俺は彼女の仕事ぶりを認めているのだが、《もっと早く仕事を覚えられていれば…》とぼやく彼女を見ているとなるほどサウンドウェーブが彼女を甘やかしたいと思うのも頷けると、彼がアメジストを執拗に心配する理由に理解を示してしまうようになっていた。
アメジストと同時期に生産されたトランスフォーマー…所謂同僚という立ち位置の戦闘員ブラックアウトがこの研究室の戸を叩いたのは、アメジストがいつものように、研究に勤しむ俺のサポートに回って部屋の片付けや器具の手渡し、記録作業などをしていた時だった。
両軍の和平後NEST基地には、ディセプティコンの居住区が新たに建設された。とりわけ武器の開発や簡単なリペアも担う俺の研究室には来客が絶えない為、入口は基本的に開けっ放しにしている。
人間には巨大すぎる入口に立つブラックアウトには負傷したような様子は見受けられない。何か別の用事で来たんだろう。
アメジストが、劇薬を扱っていて手が離せない俺の状態を察知し、言われる前に抱えていた工具一式が詰まったボックスを棚に戻して彼の対応に向かった。
流れるような自然な動きに俺はまた感嘆する。
《どうしたんですか》
《サウンドウェーブ様からショックウェーブ様にデータを渡すよう頼まれた。口頭で伝えたい事もいくつかあるんだが、今、時間はあるか》
《そうですね…今は立て込んでいるので、すぐには無理ですが、5分程待って下さるなら話が出来ます。良ければ椅子を出しますが、ここでお待ちになりますか?》
《ああ》
《では、こちらにどうぞ》
アメジストはブラックアウトを中央にあるデスクに案内すると、動線が塞がれるから邪魔だと部屋の隅に追いやっていたコンテナを運んできて彼に座るよう促した。
地球にある生活用品は全て人間サイズであるため、我々はこうして既にあるもので代用しなければならないのだ。
ブラックアウトが大人しくコンテナに掛けたのを見送ると、アメジストはまた片付けに戻り、それが一区切りすると、次の指示があるまで待機することにしたらしく、ブラックアウトの隣に違うコンテナを運んできて彼のように座った。
《……ブラックアウト、聞いてもいいですか》
研究室は3人分の無言が漂い、俺が手を動かす音しか無かった。
そこへ、ぽつりとアメジストの声が。
聞き耳を立てるわけじゃないが他に遮るような音もないので、自然と聴覚回路が彼らの声を拾ってしまう。
《なんだ》
《サウンドウェーブ様に頼まれてこちらに来たということは、今朝お会いしたという事ですよね》
《そうだが》
《…サウンドウェーブ様の様子は、どのような感じでしたか》
《……相変わらず忙しそうだ》
《そう、ですよね……教えてくださってありがとうございます》
珍しく言い淀んだ彼女に驚く。
ブラックアウトもそうだったようで、彼はすぐさまアメジストに問いかけた。
《寂しい…のか?》
アメジストの顔パーツや音声のヘルツ数をメモリーサーキット内にデータとして保存されている、トランスフォーマーの感情パターンと照合してそう結論づけたのだろう。
しかしディセプティコンにはそう言った感情が希薄な者も多い。だからブラックアウトも探るような声色を出したのだ。
《……そうですね、正直寂しいです。こうなったのは、未だに恋人としての行為に踏み出せない自分の意気地なさが原因なんですが…。いつもこうなんです。わがままを言ってしまったら、身勝手な欲求をしてしまえば彼に負担がかかると…困らせてしまうと考えてしまって踏み出せない。そんな自分は嫌だと思ってしまう》
適当な言葉を見つけられないのか黙り込んで返答しないブラックアウトに代わり、作業がひと段落した俺は2人の方を振り返った。
《それは考え過ぎだ。サウンドウェーブは無能な男ではない。他に任務を抱えて忙しかったとしても、お前の望みくらい叶えてやれる度量はあるだろう》
《俺も、そう思う。次に会う時は思い切って甘えてみたらどうだ》
俺の発言にブラックアウトが賛同し、顔色を曇らせる彼女を励ました。
アメジストは俺の顔を見て、次にブラックアウトに視線を移す。すると、ぎこちなくだが微笑んで、口癖のようにするりと感謝の言葉を述べた。
《やってみます》
アメジストの赤いオプティックが頼りなさげに揺れる。
俺はブラックアウトと顔を見合わせると、彼女とサウンドウェーブの間に横たわる大きなすれ違いへのもどかしさを共有し合った。
2週間前、サウンドウェーブが俺の元にやってきた時、偶々その場にブラックアウトも居合わせていた。だから、スコルポノックばかりに関心を寄せてそれ以外には関心の薄い彼でも、2人の問題に積極的に手出しできないやるせなさから、顔を顰めるくらいには事情を知っていたのであった。