あなたは何も知らない/*Soundwave
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《メガトロン様、サウンドウェーブ只今戻りました》
《遅かったな。守備は上々か》
《もちろんでございます。詳しい報告はこちらを》
《ああ》
メガトロン様にリストに乗っていた人間の生命反応データを渡し、計画通りに口封じが進んでいることを報告する。
人間が比較的繁殖していない環境だからとはいえ、サバンナは絶好な隠れ家とは言えない。ボディの隙間まで砂が入り込み、野生の下等生物の鳴き声で聴覚回路がショートしそうになり。
……主君の前でそんな苛立ちを表に出す訳にも行かないので、全く気にしていない態度を取るが、ここに取り残されるようなことがあれば、俺はたった一人でも地球を破滅させようと立ち上がるだろう。
ブレイン内でデータを閲覧していたメガトロン様のカメラアイが、若干不機嫌そうに絞られる。ついに、覚悟していた瞬間が訪れたようだ。無意識に掌を握りしめていた。
《この男の一族を……なぜ始末していないのだ?》
俺のブレインにメガトロン様が見ていたデータページが転送される。
そこには、見慣れた顔立ちの女と、とある男の個人情報が載せられていた。
ディランの父親のように、自分と、自分の家族のためにディセプティコンに傾倒した人間は山程いる。
ベル一族もまた、その中のひとつだった。
殆どの顔写真に"死亡"という赤いラベルが付けられている中、就活用に撮影したと思われる、ぎこちなく笑っている女の写真と、その父親の写真にはカテゴライズが行われておらず、その下にあるバイタルデータは未だにオールグリーンを表している。
体内に埋め込んだ監視用チップが、何も知らずにのうのうと生きているクインや、彼女を守るためにディセプティコン一派に堕ちた父親の生存をしっかりと記録している証だ。
自身の父親が人類を脅かす異星人の手下であることや、数十年前、素直に従わなかった見せしめとして、まだ赤ん坊だったクインの目の前で母親を殺し、ベル家を地獄に突き落としたのが俺であることを知ったら……篭絡するために近付いて、今の関係を築いた事を理解したら……親を殺めた罪と、彼女を誑かした罪で、彼女は俺を憎むようになるのだろう。
《恐れながらメガトロン様。その男にはまだ利用価値があります。さらに男を脅す材料として、その女は必要不可欠なのです》
《ほう?納得のいく理由なのだろうな》
《はい》
こうして問い詰められる時に備えて、わざわざ言い訳なんて考えなくても良いのに。彼女と男をさっさと始末して、面倒な関係を終わらせてしまえばいいのに。
ベッドの中で肩を寄せ合い、まつ毛の影を頬に落として、幸せそうに微睡む彼女を見ていると、俺はクインの首を手折ることができなくなってしまうのだ。
より人間を近くで監視し、操りやすいように開発されたヒューマンモードの姿で、彼女の髪を撫で、脆い体を壊さないように抱きしめることに安らぎを覚えるようになった。
彼女と同じ種族として生まれたならばどれだけ良かったろうと考えるようになった。
もっと違う出会い方をしていたらと……切望せずにはいられなかった。
《……フン。まあ、お前は他の奴らよりも使えるしな。我らが全宇宙を支配できた暁には、人間の女1匹くらいペットとして飼ってやっても良い》
俺の内心は全て読まれていたが、肯定的な言葉を向けられたことでスパークの中にあった不安が晴れていく。
彼女を殺さなくてもいい状況になった。その上、人類を占領した後も傍に置いても良い許可を頂けるとは。
メガトロン様にしては甘い意見を下さったが、機嫌を損ねて話が反故になってしまっては堪らない。
《恐れ入ります》
《もういい。任務に戻れ》
《はっ》
ビークルモードにトランスフォームして、エンジンを掛けると、浮かれる気持ちを抑えるように慎重になって道路を走った。
クインが住む街に着いてヒューマンモードに変形する頃には、太陽は沈みかけ、街は赤く染まり出していた。
手慣れた手つきで彼女の家の扉を叩くと、程なくして目の前に薄着のクインが現れた。
まだ完全に夜になってない内から会えたことに驚いたようで、ネグリジェの上に羽織ったショールが、彼女の手の支えを無くしてパサリと落ちる。
俺は彼女を強く抱き締めると、後ろ手に玄関の扉を閉め、家の中に侵入した。
もうすぐ夜がやってくる。
誰にも邪魔されない夜の闇が。
「ねえ、どうしてここに、」
「俺の名前はサウンドウェーブだ」
肩口に顔を埋め、戸惑ったように藻掻く彼女へそう告げる。
手に入れたも同然なクインにはもう、名前を黙っている必要も、組み敷いてる間に彼女への愛を隠して無言でいる必要も無い。
「サウンドウェーブ……。私はね、クインって言うの……よろしくね?」
くすりと笑って言った彼女へ……何も知らない愚かな女へ……。
俺は込み上げる高笑いを我慢して、泣きそうに微笑むクインにキスをした。
*_*_*_*_*_*_*_*_*_*
fin.貴女は何も知らない