倒錯的殺害予告/Barricade
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「ありがとうございました、バリケードさん」
「気にするな。じゃあな」
ぺこりと頭を下げるクインをサイドミラーで注視しながらアクセルを踏む。
適当にその辺の道を走り、そろそろいいか、と思ったタイミングで、彼女の家の前に戻って様子を伺う。
……定刻通り、彼女はシャワーを浴びているようだ。
周囲に人がいないことを確認すると、トランスフォームをし、用意していた手紙をつまんでポストに投函しその場を去る。
玄関先に鼠の死体が詰まった箱を置くのも忘れずにしておいた。
バックミラー越しに、入れ違いで物音に気づいた彼女の家の住民が玄関を開けるのを確認した。随分と手慣れたもんだ。
ディセプティコンのアジトに戻る間、彼女が俺からのプレゼントを見つけた時、どんな顔をするのか想像して、酷く高揚した。
明日からは悩みを聞いてくれる友人もいないのだ。
ひとりぼっちになったクインはきっと、不安に押しつぶされて、心を痛めて、さめざめと泣くに違いない。
彼女はいよいよ、俺に縋るしかなくなる。
事情を以前から知っていて、信頼出来る人物は俺しか残っていないのだから。
いつも脅迫状を燃やしにくる焼却炉に、友人の骨の燃えカスがあるとも知らずに。明日もまた、あのゴミ捨て場に行くんだろう。
スパークから恍惚とした笑いが込み上げ、耐えきれず、締め切った車内でゲラゲラ大笑いした。
これでお前は俺だけの物になったわけだ。
これは愉悦の笑いだ。
ブレイン内に保存してあった半月前の盗撮写真を見返し、何の不安もなく平穏に笑っていた彼女が、徐々に暗い闇の方へ溺れていく様に思いを馳せる。
早く明日にならないだろうか。
◇◇◇
最初は単なる監視対象だった。
アーチボルト・ウィトウィッキーの子孫と同じ学校に通う人間で、それなりに小僧と話す機会のある女だったから、いざと言う時の脅しの材料にでも使えるように、情報を集めていただけ。
それが、いつからか……。
俺にとってクインは、観察対象以上の存在として認識されるようになっていった。
きっかけは、恐らくあれ。
車に轢かれた子猫の死骸を見た彼女が、痛々しく顔を歪めた時のことだ。
ぼろ雑巾のように道路に放置された腐った肉の塊を前に、今にも泣き出しそうな表情をして十字を切っていた彼女が妙に記憶回路に残っていて、試しにストーカーまがいの手紙を送ってみたら、似たような顔になった彼女を目にして気にするようになった時のこと。
あんなちっぽけな生命体よりも永く生きてきた自分が、下等な人間の女ひとりに執着しているというのが信じられなかったから、自分への不信感を無くしたくてクインへ嫌がらせをする毎日を送った。
赤毛の女と共に警察署に来た時はこれ幸いとクインの送迎や巡回を率先して担当するようになった。
予想通り、警察官という肩書きに警戒を毛ほどもしない彼女を傍で観察することができるようになった。
嫌がらせを受けて恐怖や嫌悪を露わにするクインの隣で、あの時と似た状況を直に感じられれば、スパークに巣食うヘドロのような感情の正体を暴けると思った。
結局わかったのは、その感情の正体が"恋"という一種の執着であるということだったが。
理解した当初は簡単に受け入れることが出来ないでいた。
しかし、彼女を不快にさせる行為がやめられず、エスカレートさせていく内に自身の感情を認められるようになっていった。
俺は怯えるクインの顔が好きだ。
心の支えにしている警官が犯人とも知らず、架空のストーカーに顔を青くして普通の生活が出来なくなっていく彼女が、堪らなく快感だった。
少しずつ俺に毒されていって、その積み重ねがいつか彼女の心を侵して、致命的な一撃となって瓦解させる楔となる。
今のように苦しむ表情を真横で見ているのもいいが、その時を迎えたら……。
もはや今の俺は、人間1匹に執着する自分に違和感を覚えることはなかった。
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fin.倒錯的殺害予告