倒錯的殺害予告/Barricade
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授業終了のチャイムが鳴り、憂鬱な気持ちになりながら教材をリュックに詰め込んでいく。
半月前はいの一番に教室から飛び出していたのに、今は少しでも帰るのが遅くなるよう、無意識に手が遅くなっているように感じる。
とぼとぼとした足取りで、親友と約束した校門前にたどり着く。
あんな内容の手紙を送り付けられた後だったから、ブレンダの彼氏と一緒に帰路に着くのは、彼らに何かしら被害が及ぶのではと不安があったが、彼女の申し出を断るほど今の私に精神的余裕があるわけでもなかったから、大人しく彼らを待つことにする。
「遅いなぁ……」
授業のスケジュールはお互い把握していたので、腕時計の針を確認して首を傾げた。
とっくに彼女たちも授業を終えているはずなのに、キョロキョロ辺りを見回しても、見慣れた赤毛の美人と長身マッチョなカップルは見当たらない。
何度か迷った後に、やっぱり教室まで迎えに行こうと踵を返す。
パッパー!
……と同時に、聞きなれたクラクションが2回、短く鳴らされた。
校門の先、街路樹が等間隔に植えられた道路を振り向くと、1番近くに生えている木の下に1台のパトカーが停まっていた。
運転席には、髭を生やした顔見知りの警察官がひとり。
「バリケードさん」
証拠不十分で他の警官が取り合ってくれない中、巡回や送迎を率先的にしてくれている彼に会えて、緊張していた体から余分な力が抜けていく。
予め、何か用があったり事件に関して進展があれば交換してある携帯の番号から連絡するように決めていたため、なんのアポも無しにやって来た彼に疑問を抱いた。
歩道に寄せられた助手席側のドアに駆け寄るといつものように窓がゆっくり下げられる。
こちらを見るバリケードさんの表情は、これまたいつもと変わらず無表情だ。
「たまたま近くに寄ったから様子を見に来た」
なるほど、とひとりで納得する。
「今帰りか?」
「はい。友達を待ってるんです」
「友人とは、一緒に相談に来た赤毛の少女と、背の高い少年のことか?」
「え!そうです!2人に会ったんですか?」
「ああ、裏門で見かけた。急いでる様子だったから、急用か何かで帰ってしまったのではないか」
「そ、そうなんですね……」
ブレンダから言い出してくれたのに、何の連絡も無しにドタキャンされた事に傷付く。けど、連絡すら忘れてしまうほどの急用だったのかもしれないと考えれば、そんな気持ちもなんとか切替えることが出来た。
……でもやっぱりショック。
「送っていこうか」
「すみません、お願いしていいですか」
「構わない」
会話を終えると助手席のドアが開かれた。
まだ明るいがひとりで帰りたくなかったため正直有難かったが、結局またバリケードさんにお世話になってしまったのにはいささか申し訳なさを感じていた。
だって、昨日も、一昨日も、その前もずっと、彼には学校の送迎をしてもらっていたから。
慣れたように助手席に乗り込むと、パトカーが発進し、景色が流れていく。
窓の外にはしばらく、校舎を囲うオシャレな鉄の黒い柵が続いていたが、高校専用の大きなゴミ捨て場を通り過ぎると、何の変哲もない街中の風景に変わっていった。
ゴミ捨て場の焼却炉から煙が上がっていたため、今日は燃えるゴミの日だっただろうかと思ったが、最近はストーカー被害のせいで曜日感覚もおかしくなっていたし、自分の思い違いだろうと思考に見切りをつけた。
横に向けていた顔を正面に向き直す。
「今日も酷い顔をしている」
と、運転席から。
正面から一切視線を外さないバリケードさんへ顔を向ける。
「……やっぱりバレちゃいます?」
「顔が真っ青だからな。食事をちゃんと摂ってないんだろう」
「うっ……実は、ハイ……。四六時中誰かに見られてるのかと思うと、ご飯が喉を通らなくて」
「その調子だと睡眠も満足にしてなさそうだな。気持ちはわかるが、そんな調子だと持たないぞ」
「ハイ……すみません」
「別に怒ってるわけじゃない」
信号が赤になり、そっとブレーキをかけられる。
父のダイナミックな運転と違って、バリケードさんの運転は紳士的だから三半規管が激ヨワな私でも車酔いにならないので助かる。
会話でもそうだ。
無表情や淡々とした口調も相まって、一見冷たいように感じるが、実際はそうじゃない。
言葉の節々に心配してる様子が感じられるし、語気も優しげだ。
最初は、クールなバリケードさんとのやり取りは気まずくてしょうが無かったが、今となっては程よい沈黙が心地よく、彼といる車内は私にとって安全地帯だった。
こんな状況になってつらいし毎日が苦痛だが、バリケードさんと出会えたことに関しては、本っ当に不本意だが感謝している。
このまま家に帰りたくないなと思うくらいには。
「何を考えているんだ」
「あ!あいえ!なんでも!!」
考えを見透かされたのかと思いビクッと肩を跳ねさす。
私の態度がおかしかったのか、バリケードさんはくくっと悪戯っぽく笑いを漏らした。
私は顔が熱くなるのを自覚したが、気になる人のレアな表情を見れたことに内心ドキドキとしていた。
信号が青になると車が再発進し、あっという間に私は家に到着した。