1.宝冠なき王と国民1号
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あっ。
と言う間も許されないまま、私の部隊は戦車の爆撃によって吹き飛んだ。
メガトロン亡き後も地球に残って暴れている、ディセプティコンの残党による攻撃だ。
宙に舞う体。
人払いをしたアメリカの街のど真ん中。
私は、倒壊したビルの鉄骨や瓦礫と一緒に、道路に空いた大穴から地下鉄へ真っ逆さまに落ちていった。
壊れた上水パイプから漏れる水で軽く水没したトンネルの、赤茶の線路の上に腰をうちつけ目の前が一瞬真っ白になった。
がらんと巨大な音をさせてすぐ横に鉄骨が落ちてきて、ヒュッと息が漏れる。心臓がバクバクしている。
じわじわ腰に広がる鈍い痛みに悶えながら、震える足を叱咤して起き上がる。
武器は衝撃で壊れたし、仲間とは引き離されてしまったがなんとかしないと。
幸い、ビル1階分の高さから落ちておいて、怪我は受け身でかばい切れなかった左腕と、足を少し切ったくらいだ。
邪魔になったアサルトライフルを片手で何とか肩から外し、尻もちを着いた状態で足を手当する。腕はヒビが入っていそうだが、激しく動かさなければ足の応急処置くらいできた。
奥歯で悲鳴を噛み殺し、ぎゅ、と包帯で止血をして立ち上がる。
とにかく今はできるだけ敵に会わないように注意しながら、後方の支援班との合流する事を目標にしよう。拳銃でも手榴弾でも鉄パイプでも、何でもいいから武器が欲しい。あと欲を言えば鎮痛剤も。
まん丸に切り取られた青空を下から見上げる。
鳥が羽ばたく澄んだ青空は別世界のように綺麗なのに、私が落ちた穴からは、地響きのたびに小さな砂埃が滝のように降り注いでいて…。
遠くから仲間の悲鳴が聞こえなければ、あの戦車が暴れて砂埃をこちらまで飛ばしてこなければ今日はきっと、ピクニックに最適ないい日和になっただろう。
温かいベッドで在り来りの朝を迎えた時の私は、まさか自分がこんな非現実的な世界に巻き込まれるとは考えてもいなかった。
朝食のコーヒーの匂いを、友達との電話を、なんでもっと味わっておかなかったんだろう。たった1枚の紙きれで、当たり前に平和な日常は無くなってしまうのだと知っていれば…。
人間同士の争いが比にならないほど圧倒的な武力に気圧され、心を折られた私は、半泣きになりながら全てに背を向け、瓦礫で塞がっていない方の道へ歩き出した。
今日、私、生きて帰れるんだろうか?
─ ✧ ─
これといって特にやりたいことも無く、父が軍人だったからと言う理由だけで言われるがまま訓練学校を卒業したのは、記憶に新しい。
昨日の解散式。
他の同期達のようにその場で配属を言い渡されず家へ返された私や何人かの仲間は、決まった日時にとある場所に向かい、とある輸送機に乗るようにとだけ書かれた紙に従ってこの戦場へ連れて来られた。
移動する輸送機の中で何が何だか分からないまま装備を身に着け、レノックス少佐から、これから自分がNESTという秘密組織の一員として戦うことを聞かされた。
…が、現実味のないその話を信じている様子の者はおらず。
みんな首を傾げたり怪訝そうな顔をして、タチの悪い冗談か、どこぞの番組のドッキリを仕掛けられているんじゃないかといった仮説を口々に唱えていた。
そんな顔をすると思ったから解散式で説明しなかったんだ。
そう言った少佐がロボットに変形する車を1人ずつ紹介していったが、現実逃避のためか、それでも私は目の前の事実を受け入れることが出来ていなかった。
地球を侵略しようと目論む悪のロボット軍団、ディセプティコン。
そしてそれに抗う正義のロボット集団オートボットと、共同戦線をはる人間部隊NEST。
現実離れしたファンタジー映画やドラマみたいな世界の中に自分がいるだなんて、簡単に信じろという方が無理な話だ。
─ ✧ ─
目の前で変形するピータービルトやカマロ、エトセトラエトセトラ…。
それを見せられた時はまだ巧妙なドッキリだと疑う余地があったのに、こうして命の危機に瀕してしまったら、自分が戦わなければいけない状況に陥っていることくらい嫌でも思い知らされる。
戦わなければ死ぬしかないという、自然界ではごく当たり前な弱肉強食の現実を。
せめて、輸送機に乗せられる前にNOと言っていれば……。
私は生まれて初めて、流されやすい自分の性分を心底恨んだ。