4.キミと僕だけの絶対王政
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果てしなく続く荒野をひたすらに歩いた。
体が重く、足は棒のようになってしまいそうだったが、なぜか足を止めてはいけない気がして、何もない不毛の大地を踏みしめた。
もうずっとこうして歩いているような気もするし、そうでない気もする。
ここはずっと昼だから、時間感覚がおかしくなってしまった。
《こんなところで何をしているんだい》
体にこもった熱をさすがにどうにかしないとと思い、うず高く立ち並ぶ岩の陰に入り、日光から身を隠した時だった。
巨大なトランスフォーマーが太陽を背にしてこちらを見下ろしていたのだ。
ここへ来てから初めて会う知的生命体に驚き、後ずさる。音も気配も感じさせず、突然幽霊のように現れたから警戒心はむき出しだった。
《ああ、驚かせてすまない。ここへ来る者は少ないから、あまりに珍しくて思わず声をかけてしまったんだ。大抵は皆、ここを通ることはないからね》
どこか要領を得ないトランスフォーマーの言葉に質問を投げかけようとして、自分の声が出ないことに気付いた。長く歩きすぎたせいで、話せなくなってしまったらしい。
《声が出せないんだね。大丈夫、その内また話せるようになるさ。…なるほど》
出せない声の代わりに地面に指で文字を刻むと、トランスフォーマーは考え込むようなしぐさをして頷いた。
《"誰?"か…。そうだな、今教えてもきっと君はすぐ忘れてしまうだろうし…まあ、プライムと名乗っておこう。…ああ、私はオプティマスではないよ。見た目も違うだろう? しかし、そこらへんの記憶はちゃんと残っているんだね、大したものだ》
プライム、と聞いて真っ先に思い浮かんだ名前の綴りは、どうやらこのトランスフォーマーの物ではなかったようだ。
プライムとの会話でわかったことがいくつかある。
1つは、どうやらここは夢か、あの世か、とにかく現実の世界ではないということ。
もう1つは、ここに来る過程で、自分は記憶が曖昧になっているということだ。
一人で歩き続けている時は考えもしなかったが、言われてみれば自分の名前も、ここへ来た時の事も、それ以前のことも何も覚えていない。
断片的に覚えていることはあっても、それについて深く考えようとするともやがかかるように頭の中が真っ白になっていくのだ。
記憶喪失とはまた違う、何らかの意思によって記憶を塗りつぶされ、新しい自分に生まれ変わるような不思議な感覚だった。
プライムはどうやらすべてを知っているようだったが、こちらに手の内を明かすような事はしたくないのか、言及しようとするとやんわりと逃げられてしまい結局何も聞き出せず、ただ他愛もない話ばかりをした。
やがて自分の周りの地面に文字を書くスペースが無くなって来た頃、自分の隣でしゃがんで視線を合わせていたプライムが立ち上がった。
プライムが見つめる視線の先を見ると、小さな黒い点のようなものが荒野の暴風に晒されながら少しずつこちらに近づいているのが見えた。黒い点が近づくにつれて、その正体がヒト型の物体であることが分かった。
《少し待っていてくれ》
プライムはそう言うと岩陰から出てヒト型の物体に向かっていった。
ヒト型の物体…人間の男がこちらから顔が認識できる程度の距離まで近づくと、また幽霊のようにプライムに似たトランスフォーマーが数人現れた。
容貌の似た6人のトランスフォーマーは男と何やら言葉を交わしていたが、男はこちらに気付くと慌てた様子で駆け寄ってきて、必死に訴え始めた。
「そうか君も僕と同じだから…!さあ、一緒に帰ろう!みんな君を心配してるんだ」
《すまない、君が考えている方法ではダメなんだ》
「なぜ?だって、マトリクスがあれば…!」
《それが君の運命だからなのだよ》
「待って、待ってくれ!…!」
《サム、オプティマスの所に戻り、マトリクスを融合させるんだ》
6人のトランスフォーマーが放つまばゆい光に瞼を閉じ、次に開けた時には先ほどの男は目の前からいなくなっていた。
ついでに、最初に出会ったプライム以外のトランスフォーマーたちも。
《…さて、君も元いた所に返してあげたいのは山々なんだが…。私も少し、休まないといけないんだ。塵となったマトリクスを再生させるのに、少々力を使ってしまったから》
もう会えないのか、と地面に綴ると、プライムは優しく微笑んだ。どうやら肯定の意味らしい。
《また一人にさせてしまうが、安心しなさい。時期にここへまた"客人"はやってくる。…ただもしまた、どうしても歩きたくなったのなら、客人は待たずに歩き出しなさい。私や世界は、それを止める事はしないし、できないからね》
また訳の分からない事ばかり言って、謎だけ残して行くのか。
そう地面に書くと、プライムは聞き飽きた声で《すまない》と言い残して消えてしまった。
荒野に再び静寂が訪れる。
ふと地面を見ると、まるで今までのことがすべて白昼夢であったかのように、地面に掘った文章が消えており、乾ききった大地がそこにあるだけだった。