ジェラシー/Ironhide
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私は今日、最高にラッキーだった。
朝行ったダイナーでは、店主の機嫌がよくていつもよりベーコンが1枚多くサービスされたし、通勤中は渋滞につかまることもなくスルスルNEST基地までバイクを走らせることが出来た。
よくミスしてしまう事務仕事もつつがなくこなし、やっと迎えた昼休みでは、整備士仲間の先輩がアイスクリームを奢ってくれて、しかもそのアイスは、売れすぎて並んだって買えないことで有名なメーカーの新しいフレーバーだったため、もしかしたら今日帰りに事故にでも遭うんじゃないかな?と勘ぐってしまうくらいに、今日の私は絶好調だった。
う〜ん!ピスタチオ&マシュマロのチョコレートファッジ最高!この時のために生きてた!
昼休憩を終えてスプーンやカップを捨ててすぐ、任務終わりのオートボットたちで第1格納庫は賑わい出した。
やれ武器の調子が悪いだの、やれそこは触るなだの。
テキパキとメンテに当たろうとする他の整備士に指示出しをしたり、文句を言っているトランスフォーマー達の下を潜り、私は目当ての人物の元に辿り着く。
軍手を外してワゴンに乗せ、バインダーから取り外したボールペンをノックする。
すると、彼は私に気付いたようで、その大きな体躯を翻し、私に向かって膝を折ると、聞きなれた音声を発声回路から出した。
「こんにちはアイアンハイド。今日はどんな感じですか?」
《おう。敵が雑魚だったんで、特に故障もなく帰ってこれた。ただ、前回の怪我が良くなかったのか足の調子がおかしくてな。診てくれないか》
「もちろんです!」
書類にメンテ内容を記載し終わり、カチンとボールペンのチップを仕舞う。
バインダー一式をワゴンに戻し、軍手をまた着けウエストバッグから大きなレンチを取り出した。
リペア台に腰掛けた彼の足の回路を露出させる為に、つま先から順に診て回る。
彼と出会ってまだ日も浅かった頃はこの作業にウン時間もかけてしまっていたが、今となっては、今晩のディナーは何にするか考えながらパーツを次々とワゴンに載せられるため、ここにいる誰よりも早く彼をリペアできる自信も付くってもんだった。
《随分機嫌が良さそうだな》
「あ、バレました?」
《お前がセプテンバーを歌うのは、頭が花畑になった時か、取り返しのつかないミスをした時くらいだからな》
「う、否定できない」
以前アイアンハイドの大切なパーツを無くしてしまい、本人と先輩から大目玉を食らったことを思い出し苦い思いをする。
頭上でくつくつ笑うアイアンハイドは、そんな私を見下ろして機嫌が良さそうである。あーホント、いい性格してますねぇ!
Earth, Wind & Fireのメロディーで占領されていた頭が、意地悪く笑う彼でいっぱいになる。
「さ、終わりましたよ。全く……私の相棒がアイアンハイドじゃなく、愛しのシャドウスラッシャーで良かったです。彼もあなたと同じカラーリングしてますけど、貴方みたいにからかってくる口もブレインも無いし、こんなにメンテも複雑じゃないですし」
アイアンハイドの膝をぺちんと軽くはたいて終了の合図を出す。
わざとらしく肩を上げてそんな苦言を零してみると、意外にも、彼からなにか言われることは無かった。いつもなら、憎まれ口の一つや二つは言ってきそうな物なのに。
《あれがそうか》
「え?ええ……そうですよ。あれが私のダーリンです」
格納庫のシャッターは開いたままだったから、ここから、私の愛車が停めてあるパーキングが良く見えたようだ。
恐らくスキャンして車種を特定したんだろう……彼は私のシャドウスラッシャーをまっすぐ指さすと、敵を睨みつけるような視線を注いでいた。
すくっと立ち上がり、のしのしと歩いていった彼に私は暫く首を傾げていたが、アイアンハイドが愛車の前に辿り着いて、腕に装備していたミサイルをぶっぱなした辺りで迷走していた意識も現実に引き戻された。
「ちょっ?!!」
ドガァアアアンピューーーチュドドドドド!!!!
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙わたしのダーリンがァァァッ!!!」
突如格納庫内に轟いた雷鳴や閃光に、ここにいる全員の視線が一点に集められた。
私はまだ煙を上げ続けるそこへ駆けると、抉れた地面ごと4次元へ消し飛ばされてしまった愛車の面影に思いを馳せ、へたりと地面へ座り込んだ。
ああ、さよなら、私のラッキーデー……。今日は人生最悪の日だ。
《ふん、何が相棒だ。ブレインも無ければ戦える力も無い腰抜けマシンじゃないか。こんなのより、よっぽど俺の方が……》
アイアンハイドが何やらこちらに向かって喋っていたが、私は本当にそれどころじゃなくて、彼の言葉を聞き取ることが出来なかった。
砕け散ったバイクの黒い破片を見つけ、手に取ると、愕然としていた気持ちが一気にドカンと噴火した。
「アイアンハイドの……」
《あ?なんだよ》
俯いた顔に、彼の声がかかる。
私はバッと彼を見上げると、腹の底から怒りを叫んだ。
「アイアンハイドのバカーーーーッ!!!!!!!!!」
鳩が豆鉄砲食らったような表情をしていたアイアンハイドの顔が、私の叫びでみるみるしかめられていき、程なくして喧嘩が勃発したのは言うまでもなかった。
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fin.ジェラシー
「ホントの事言って謝ってこいよ。クインの愛車に嫉妬したってさ」
《うるさいぞレノックス!!》
「……はぁ、やれやれ」