不格好なやさしさ/Ironhide
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思い切り泣いた後は声をまともに出せなくなってしまった。
カラカラに乾いた喉の違和感を感じながら、力の入らない右手を膝の上で何度も握ったり開いたりする。
帰り道。再び乗り込んだ車内では、ここへ来た時より居心地のいい沈黙の中でドアによりかかり、ひたすら流れる夜の景色を窓から見ていた。
私は今、生きているんだ。
少なくとも、死を怖いと感じなくなるまでは、生きてもいいのかもしれない。
楽しいと、やりたいと思うことをしてから生を全うするのを許してもいいだろうか。
兄はきっと、そんな時間もなく死んでしまったから。
すうっと息を吸って、吐く。
誰にも話したことの無い。
私の傷口を、今から抉る。
「……あなたたちと任務に行った、兄がいるんです。たった一人の肉親の……。1週間前、彼は死んで、私のところに帰ってきました。任務地で立派な殉職をしたと、後から聞いてます」
『……』
「その場では、兄が死んだことについて何も感じませんでした。だって、戦闘機と一緒に海に沈んで、死体がなかったんだもの。
でも、何気ない日々の中に彼がいなくて。ふと話したい時に隣を歩く兄はいなくて。……気づいたの。私、自分に嘘をついて、兄の記憶を忘れることで痛みを紛らわそうとしてた」
痛む胸をシャツの上からギュッと握る。
痛みは消えない。
「今話すのもすごく辛い。あの人がいなくなってからずっと、自分を責め続けて、自分なんか消えればいいと思ってたから……。でも、今は違うの……。不思議よね」
思わず口から息が漏れる。ぎこちなかったけど、笑ったのなんて久しぶりだ。
「ねえ、だから……。さっきは怒鳴ったりしてごめんなさい。…………私をあそこへ連れ出してくれて、ありがとう」
『……フン。誰もお前の身の上話なんて聞きたいと言ってなかったんだがな』
「ふふ、そうね。ごめんなさい。口が滑っちゃって。あなたって口は悪いけど、すごく優しいのね」
『ひと言余計だ』
今度は拗ねたような声色でスピーカーから文句を言われる。
和やかな空気にまた笑いたくなって、声を上げると彼は戸惑ったようにため息をついていた。
フロントガラスには基地への道が見える。
もうすぐ、彼とはお別れの時間だ。