Before falling /Bumblebee
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「フラレちゃったの、彼氏に。……お前みたいな可愛げのない女と付き合ってても楽しくないって…」
バンブルビーに気づく前のように、震えた声がそう言った。ぽろりと大きな涙がまた零れたけれど、バンブルビーはそれどころじゃなく、クインの涙を拭うことも、お得意の陽気なナンバーで励ますことも出来なかった。
付き合ってても楽しくない……?
フラれた?
……彼氏??
クインに恋人がいたというのは初耳だった。いつもサムの傍にいる自分が知らないということは、きっとサムも知らなかったはずだとバンブルビーは思った。
どんなに強くても、勇敢でも、クインだって恋をする。
そして、いつもの気丈さが嘘のように、映画の中の女の子みたいに、フラれたショックで泣いたりするんだ。
………………なんかいやだな。
そう思うと、バンブルビーのスパークがドクリと大きく高鳴った。
クインからまた涙が落ちる前に、バンブルビーの大きな指が彼女の涙をすくう。
中枢部に立ち込める激しい怒りも、悲しみも、ぜんぶ彼女に伝えて共感したい。
君は何も悪くないよ、そのままの君が良いんだよって言いたいのに、できないから。
バンブルビーは彼女の涙が止まるまで、大きな手を器用に扱って彼女を慰めた。
「もしかして、元気づけてくれてる…?」
自分の意図を汲み取ってくれた彼女に、バンブルビーは大きく頷いた。
目を丸くしていた彼女は、次第に、ゆっくりとだが口角を上げて笑顔になった。
いつかの日の夜に、二人でアイスクリームを買いに行った時の笑顔だ。
バンブルビーの中枢部が、今度は違う感情でぎゅうと締めあげられる。彼にとってそれは苦しいけれども、同時に嫌ではないと感じていた。
「私も焼きが回ったわね…。今でもUMAは怖いのに、その中でも一番苦手なエイリアンに恋愛相談するなんて」
自嘲したついでに、なんだか自分も貶されたような気がして、バンブルビーは小さく排気音を鳴らして落ち込んだ。
「でも、」
バンブルビーのマイナスな気持ちを遮るように、クインは彼の顔を両手で自分の方に向き直らせると、一息にこう言った。
「話を聞いて、慰めてくれてありがとう」
泣き止んだ彼女の瞳は、潤んでいたせいもあってか自分の目の光を受けて波のようにきらきら輝いていた。
◇◇◇
彼女を元気づける事に成功したバンブルビーは、夜の挨拶を交わしてからガレージに戻った。
もう朝4時前だから、大きな体をぶつけて騒音を立てないよう車の姿へトランスフォームするべきだとわかっていた。
が、今のバンブルビーは浮き足立つような、今にも走り出したいような弾む気持ちに頭脳も心も持っていかれており、狭いガレージでちんまり膝を抱えて、クインから貰った温かい言葉をブレインサーキット内で何度も反芻した。
ありがとう。おやすみ。
たった9文字の言葉。
でもその少ない文字が、バンブルビーの心を掴んで離さない。
気を許してくれない野良猫が、初めて撫でることを許してくれた時の感情によく似ていると思う。
僕も彼女たち人間のように、ハグをしたりキスが出来たら、声がなくても気持ちを伝えられるんだろうか。
そう考えて、バンブルビーはハッとした。
はたから見たら分かりづらいが、顔にあたる鉄のパーツがオーバーヒートし黒からオレンジ色に変わる。そこを両手で覆って、キュウウ......と長い排気を吐き出した。
気づいてしまったから。
自分がどうして、クインだけにハグやキスをしたいと思ったのか。彼氏と聞いて嫌な感情ばかり抱え込んでいたのかを。
思えば、似たような場面は何度もあった。
今日まで自分に競争相手がいないと思い込んでいたから、気づかなかったんだ。
(僕はとっくに……)
ずっと前から、君に
心の中で言葉にして、また顔に熱の集まったバンブルビーは、スリープモードに入れず朝を迎えた。
昨夜のこともあり、少し心を開いてくれたクインに対して、彼の態度がよそよそしくなってしまったのは、言うまでもない。
+─────*─────+
fin. Before falling