Before falling /Bumblebee
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バンブルビーは、鼻をすするような音を聴覚回路で拾ってスリープモードから目を覚ました。
すんすん、すん、ずず。
まるで犬が風邪をひいたような音に首を傾げながら、音のする方に何があるか確かめるため、エンジンをかけてガレージの扉をそっと押した。
音の鳴る場所はすぐに見つかった。
それは、ガレージのすぐそばにある窓……2階のクインの部屋だったからだ。
カマロの姿のまま、彼はしばらくブレインサーキットを回転させる。
ご近所さんも寝静まった真っ暗闇の夜に、寝ているかもしれない友達の部屋を覗いてもいいのだろうか?と。
仮に覗くとしても、やっぱり挨拶はした方がいいんだろうか?
やあクイン。いい夜だね、なんて。
……そんな都合のいい深夜ラジオはやっているだろうか。
念の為ダイヤルを回してチェックしてみたが、めぼしいものが無かったために声をかけるかどうか迷う。
そんな事をしていると、急に部屋の窓が開いたので、バンブルビーは咄嗟にトランスフォームをして物陰に隠れた。
サムの両親を驚かせないため、隠れんぼ(?)をした時のことを思い出し、バンブルビーは既視感に目を細めた。
窓から顔を出したのは目を赤く腫らしたクインだ。
部屋の主は彼女なのだから、当たり前だが。
窓のへりに両手をついて、彼女はぼんやり濃紺の空を見上げていた。厚い暗雲に覆われた空は相変わらず月も星もない。
元から饒舌な方では無かったが、今はやけに静かな彼女の様子に、バンブルビーは言葉にできない不安を覚える。
「………このまま…」
ふと、クインの口元がぽそ、と動いた。
覇気のない声色と糸の切れかけた人形のような動きを見て、彼女の挙動に不安を感じた理由がわかった。
(……クイン、元気ない?)
バンブルビーは昔から、友達が悲しがっていたり不安がっていたりすると、感情移入してしまう
今にも泣いてしまいそうなクインの横顔に、バンブルビーの中枢部がキリキリと締め付けられる。
けど同時に、あの彼女がこんな顔をするんだとも以外に思う気持ちもあった。
キューブを巡ったディセプティコンとの戦いで、"サムを守るためなら死んでもいい!"と叫んで銃弾の雨の中を走り抜けたクインは勇敢だった。言葉にも行動にも嘘はなかった。
ただ弟を守りたいという一心だけでメガトロンに震えひとつ起こさず立ち向かえるような、強い心の持ち主。
それがバンブルビーから見た、クインという女性だった。
そんな
バンブルビーの答えがまとまる前に、堰き止められていたはずのクインの涙が、瞳に膜を張って次の瞬間には、はらはらと、大きな雫となって何度も頬を滑った。
「このまま………消えちゃおうかな」
ギョッとしたバンブルビーは、慌てて彼女の前に立ちはだかった。ぼんやりした彼女の目が虚ろで、もしかしてこのまま窓から飛んで空に消えてってしまうんじゃないかと不安になったからだ。
でも気持ちを伝えようにもちょうどいいチャンネルがない。精々、下ネタを連発しているサムイ深夜番組か、芸能人のゴシップをさも本当かのごとく囃し立てる下世話なトーク番組しかヒットしなかった。
あたふたとなにか無いかと身体中ペタペタ漁っていると、立った自分とちょうど目が合う高さにいる彼女が驚いた顔をした。
そしてその後、眉間にぐっとシワがよった。
「なに、バンブルビー。聞いてたの?一体どこから?…………なんで喋らないのよ」
彼女はUMAやエイリアンが怖いらしく、バンブルビーと話す時はいつも不機嫌そうにしていた。それが今は、いつもより10割増しになっている。
喋りたくても喋れない、というのをなんとかジェスチャーで表現するものの、彼女はますます顔を顰めるだけで、バンブルビーは肩を落とした。
彼女がどこかにいってしまうだなんて、自分の勘違いだった上にすごい冷めた目で見られた…。
がっくり項垂れてくぅーんと発声回路を鳴らすと、ガレージに戻るためトランスフォームしようとした。
「まって、」
踵を返そうとした所で、クインの凛とした声がバンブルビーを呼び止めた。
バンブルビーはこの所、理由は知らないがそんな彼女に弱かった。
本当にここにいてもいのかな…?という半信半疑な思いで、バンブルビーは腕組みをしていた彼女に顔を寄せた。
自分の顔が縦にふたつしか並ばなそうな窓は非常に窮屈だった。
彼女の口が、バンブルビーになにか伝えようと動こうとしている。
イチゴのように赤い唇は、彼女が微笑むと三日月のようになるのに。
今はこころなしか、震えているような気がした。