06:21/Ironhide
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死んだトランスフォーマーのパーツの一部を人間の体に移植し、人に紛れることの出来るディセプティコンを創ることは可能か?
オプティマスとの戦いで深手を負ったメガトロン様は効率の良い修復方法の発見と、戦闘員の増員のために、スタースクリーム、ショックウェーブと共に様々な研究に取り組むようになり、その研究のうちのひとつとして私は生まれた。
調整と訓練を重ねる1年を終え晴れて諜報活動を開始する許可が下り、メガトロン様のために働ける喜びで胸を踊らせながら、最後の調整を、あの実験施設で行っていたのだが。
施設の情報が漏れ、NESTに確保されてしまい、経歴から何から調べ尽くされた結果、私はここでオートボットたちの監視の元、生活することになってしまった。
寝ても醒めても、エネルゴンを摂取する時も、トイレへ行く時もオートボットがいる生活ははっきり言って苦痛だった。
特に、メガトロン様を傷つけたオプティマスは憎くて憎くてしかたなくて、どうにか不意をついて始末できないかと私情を抑えきれなくなるくらいには。
そんな私の様子を察してか、司令官を失うことを危惧したオートボットはオプティマスを監視の任から遠ざけるようにし、代わりに他の者を監視者として配するようになった。
べつに、誰が担当だろうが鬱陶しいことには変わりないし、決まった相手が監視者でない方がこちらの思惑がバレる可能性も低くなるので大歓迎だったのだが、
《よお、クソガキ》
「……ガキじゃない。クソスクラップが」
《あ? やるか?》
「うるさい、くたばれ」
……アイアンハイドが来る日だけは別だ。
遥か頭上にある顔に向けて中指を立ててから、私は止めていた作業を再開させる。
瞼を閉じ、ブレインに意識を集中させて暗記した基地内のマッピング作業と、脱出経路と計画の構築を急ぐ。
この時間帯は基地のデータベースの管理が甘くなるので作業が捗るのだが、いかんせん無防備になるタイミングが短い上に回数が限られている。おそらく、管理者の交代かなにかで警備の手が緩むのだろう。1日3回という数字と、データベースにアクセスする時間帯からそんな考察をしてみる。
《またやってんのか》
「……」
《やめとけ、どうせ無駄だぞ。お前はここから出られない。無駄なあがきは、体力を無駄に浪費するだけだ》
「無駄無駄うるさい、黙ってろダーティハリー」
《ダーティハリーは悪口じゃないだろ》
「揚げ足取るくらいなら、オ×ニーしてスリープモードにでも入った方が、まだ有意義な時間を過ごせるんじゃないの」
《お前のその知識の偏りは何なんだよ。悪口の引き出しは少ないくせして汚い言葉ばっかり覚えやがって》
「保護者ヅラするな、鉄屑」
アイアンハイドは、はあーっと長い嘆息をつくと腕を組んで壁にもたれかかった。私をからかうのに飽きて、外の景色を見ることにしたらしい。なんとなく、その視線の先を私も追ってみる。
はめ殺しの窓には暗い夜空と、地平線にかかる太陽の白い光が切り取られている。朝の空だ。墨汁を垂らしたような黒と、洗いたてのシーツのような白が混ざりあった中間色の区間に、スズメやカラスの羽ばたく影とさえずりが散りばめられている。
もったいない。水を打ったような静寂の基地内も、あと数時間すれば人やトランスフォーマーの立てる騒音でごった返すことだろう。心地の良い時間が、空間が憎い相手にぶち壊されてしまうことが酷く惜しい。
《……まだ、》
鳥たちの合唱に耳を傾けていた所を、アイアンハイドのぽつりと零された呟きに邪魔されて苛立つ。私は感情を込めた視線を送ることで続きをさっさと言うように促したが、彼はこちらを一瞥した後、なんだか口篭っているかのような態度で不自然な間を開けた。なんだ、うざったいくらい潔よいアイアンハイドらしくもない。
私はさらに腹を立てながら急かした。
「なに?」
アイアンハイドは思い出したみたいに顔を上げて、でもこっちは見ないで、窓の外を見たまま口を動かした。
《……まだ、ディセプティコンの方がいいか》
下らない戯言でまたからかってくるとばかり思っていた私は、予想外の言葉に驚いたが、すぐに鼻で笑い飛ばした。
「何を当たり前のことを。今だって、アンタがいなければこんな居心地の悪い場所さっさと出ていってたよ」
《……本当にそう思ってるのか?》
「……どういう意味?」
肩を竦めていた私に、アイアンハイドの青い視線が向けられた。なぜだか知らないけど、私はそれと目が合った瞬間、どきりとした。まるで、子供の時に親で内緒でお菓子を食べて怒られた時のような、そんな気分。
《朝を、鳥のさえずりを、見て、聞いて……そんなふうに笑うもんだから、てっきりもう"こっち"の方が良いのかと思ったんだよ》
何を馬鹿なことを。そんな事あるわけない。
そう言って、また鼻で笑ってやろうとした。
けど口が動かなかった。思い通りに表情筋が機能しない。中途半端に開いた口から息が漏れる。否定も肯定もできない。
なぜ、どうしてと考えるより先に、サイバトロン星製の優秀なブレインは問いに対する答えをあっけなく導き出していた。
憎まれ口の多いアイアンハイドといる時間は苦痛だが、黙ってくれれば同じ空間にいても良くなったこと。
彼の視線を追って見つけた外の景色に目を奪われ、作業を無意識に止めてしまったこと。
鳥のさえずりを聞いて、"心地いい時間"を奪われたくないと思ってしまったこと。
私はもう、ディセプティコンには相応しくない存在になっていた。
認めたくなかった。
生まれた理由も、メガトロン様への気持ちも否定するその事実を認めてしまったら、本格的に私はディセプティコンに戻れなくなってしまう。必要以上にアイアンハイドにきつく当たって、醜く言い争って、彼との時間が不快であると思い込むようにしていたのに、それが全部、水泡に帰してしまう。
そうなったら、後に残るのは彼への情と、ディセプティコンへの懐疑だけだ。
ディセプティコンには容赦の無い彼が、拳での対話や拷問といった手法を取らずに、私の幼稚な現実逃避に付き合ってくれていた現実なんて、目を逸らし続けたかった。自分が彼に対して、メガトロン様に向けるのと同等な感情を芽生えさせていることからも。
「……んなわけないでしょ、バカ」
《そうか》
苦し紛れにやっと動かした口は、本当にボキャブラリーに貧しくて、そんな事しか言えなかった。
アイアンハイドは全て見透かしたように優しく微笑んで、また窓の外に目をやった。
私は、もしかしてこんなふうに笑っていたんだろうか。
そうなんだとしたら、アイアンハイドが口篭ってしまったのも無理はないと思った。
心地よさそうに微笑むアイアンハイドの邪魔をしないように、私は再び外を見た。
地平線にかかっていた太陽は、いつの間にか登っていて、真っ暗な夜は朝日に追いやられぼんやりと白んでいった。
こんなにも、やさしい世界があるだなんて知らなければよかった。
私は泣きたくなった。
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fin.06:21