06:21/Ironhide
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あとすこし、あとすこしなんだ。
たりない頭も、ちいさな体も、あなたの役に立てるように、ちょっとは成長したんだよ。
《虫ケラの割には使えそうだ》
そう言って見慣れた赤いカメラアイが細められた時、ああ、私はこの時のために生まれてきたんだって思えた。努力してきてよかったって。
あとは、名誉と実績を重ねてあなたの隣に立つだけ。待っててメガトロン様。
─そう思っていた。
ガラガラと崩壊する実験施設。
ここの管理と運営を一任されていた私の両親はあっという間に制圧、連行されていき、実験成果もひとつ残らず押収された。
やめて、やめてよ。
全部、全部あの人たちのために、頑張ってきた成果なのに。
実験台に寝かされ、蹂躙されていく様子をモニター越しに見ることしか出来ない私は手も足も出せない無力な子供のままだった。パパに改造してもらった体も、ママに構築してもらったプログラムも、自分で成長して獲得したものでは無く与えられたもので、今まで私はそれを、さも自分のものであるかのように錯覚して驕り高ぶっていただけだ。こんな状況になってようやく思い知った。
悔しさに目に涙を溜めて歯を食いしばっていると、あちこちを走り回るトランスフォーマーの1人がこちらに近づいてきているのを察知した。廊下のカメラに捉えられた映像には、黒色のピックアップトラックが防衛ロボットを蹴散らす様子が映し出されていた。
やがてそのビークルはドリフトを決めながら私のいる部屋に突進してきて、空中に飛び上がると同時にロボットモードに変形して両腕に携えた大きな武器の銃口を辺りに向けて《クリア!》と叫んだ。彼の合図とともに戦闘服を着た人間が何人も入ってくる。軍人と思しき彼らは手に持った様々な機械を床に置いたり、パソコンに繋げたりすると一斉にカタカタと操作しだした。おそらく、ここの研究データも持ち出すつもりなんだろう。私はせめてもの抵抗に息を殺し、声を潜めた。
彼らの突入した部屋とパーテーションで区切られた狭い空間。そこにある僅かな隙間から、黒色の大きな影が動くのが見えた。
人間の仲間がやってきてやっと警戒を解いたオートボットは、手持ち無沙汰なのか人間たちのようにハッキングするでもなく当たりをキョロキョロと見回して、時折ウロウロしていた。
どうかこっちに来ませんように。
神様にお願いした所で、叶わないことは昔から知ってたのにそうせざるを得なかった。もちろん、私の望みは無視されたが。
大きな足音をさせながら近づいてきたトランスフォーマーは、パーテーションを余裕で追い越す高さから私を見下ろし、青い視線を注いだ。
私がいることに驚いたらしい。虚をつかれた様なそれと数秒視線をかち合わせた後、取り乱す素振りも、視線を逸らすこともなく、ひたすらに落ち着いた声音で彼は《ウィル》と仲間を呼びつけた。
「おい君! 大丈夫か?!」
歴戦の兵士の風格を持った人物がそう言って、私に駆け寄った。
彼は私に掛けられた手足の拘束具を素早く解き、点滴の針やプローブなどを全て取外すと、黒色のトランスフォーマーに「よくやった、アイアンハイド」と激励の言葉をかけた。"アイアンハイド"というのは、どうやらこのトランスフォーマーの名前のようだ。
まあそんなこと、どうでもいいけれど。
「なっ?!」
《ッチィ!》
手足の自由が効くようになった私は、すぐさま傍にあったワゴンから医療メスを手に取り喉に突き立てた。ぷつ、と皮膚が裂け熱が広がると温かい液体が溢れたが、アイアンハイド、によって実験台ごと突き飛ばされたため、未遂に終わった。弾き飛ばされた体が床に横転し、心電図等の機械にぶつかる派手な音と、メスの乾いた落下音を聞いたのを最後に、私の意識は途切れた。