サテライト/※Jazz
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とにかく時間がなかったから、着替えだけ済ませてメイクもしないまま、迎えに来てくれたオプティマスがクラクションを短く鳴らしたのを聞いてすぐに家を飛び出し、彼のキャビンへ乗り込んだ。
財布とケータイだけ入ったジーンズにラフなTシャツ。
葬儀には不釣合いな服装かもしれないが、すぐに着られる服がこれしか無かったから、着いたら、ジャズには謝ろうと思った。
まだ目尻に残っていた涙を拭い、前を向いて私は叫んだ。
「オプティマス、全速前進でお願いします!」
『シートベルトはしたな?…では飛ばすぞ!』
ハイウェイに登ったピータービルトがアクセルを踏み込み、まだ夜の紺色を残す朝の景色を駆け抜けていく。
体にかかったシートベルトを強く握り、胸で熱く高鳴る心音に耳を澄ませた。
─ ✧ ─
検問所やかつての仲間達の間を通り抜け、人工衛星の打ち上げ台の前に横たえられた光を失った彼の顔へ手を触れた。
いつもは首が痛くなるほど上にあった顔がこんな形で同じ目線に来るなんて。
膝を折り、額と額をぶつけると、熱のない鉄の冷たい温度を感じた。
目を瞑ると生きていた時のジャズの姿が昨日の事のように思い出された。
─ラジオで隕石被害のニュースを聴きながら辿りついたのはなんの変哲もない汚い路地裏。
そこへ集結した、誇り高い異星の戦士たち。
ジャズに別れを告げる私を傍で見守ってくれている司令官の事は、今でこそ怖いと思わなくなったが、初めて会った時は膝から崩れ落ちるほどその巨体が怖かった。
…だからだった。
彼の仲間はみんな大きいけれど、とりわけ人間に背丈が近い彼に親近感を覚えたのは。
友達以上恋人未満になりつつある2人に遠慮して別の人……車に乗りたいと言い出した私に、快く手を貸してくれたのはシルバーのポンティアックソルスティス。オートボットの将校、ジャズだった。
サムの家へメガネを探しに行って、橋の下で守ってくれて、フーバーダムから逃げる私を拾って、ミッションシティでも庇ってくれたね。
出会ってから日は浅くて、お互いを知り合う余裕なんかなかった。地球の音楽を気に入って、車内でよく流してメロディのようなものを口ずさむ癖くらいしか、彼のことを知らない。
けどそれで良かった。
それだけで十分だった。
好きな曲をリクエストした時に、何も言わずにチャンネルを変えてくれたり、私が曲に合わせて下手くそに口ずさむとマネをしてからかってきたり、瓦礫に躓いた時に手を差し出してシートへ乗せてくれたり。
笑った声も、顔も、全部がかっこよくて、私はとっくにあなたに落ちていた。
愛のパワーはすごいと思う。
あなたはもう、この世にいない。
それなのに、好きな曲を聴いた時、夢で会った時、同じ車を見かけた時、泣いてしまうから。ずっとずっと、忘れられないから。
愛と執着はきっと、コインの裏表のような関係で結ばれているんだろう。
この先ずっと、私は彼を好きなままでいて、会えないやるせなさで苦しい夜を過ごすこともあるだろう。
でも、それでいい。
「あなたを引き留められたなら…それが一番良かった。でも、今は…………。さよなら……」
そっと音もなく彼に口付けると、別れを告げる彼の声が聞こえた気がした。
白い太陽が世界を完全に朝に変え、天上に広がる青空を遮る障害物はひとつも無く。
ロケット雲を引き連れて見えなくなっていく打ち上げロケットを、私はずっと……ずっと見上げていた。
「いつか……いつか、また会えるから……。だから、今はさよなら……」
空に手を伸ばして呟くと、言葉は誰に届けられることも無く空間に吸い込まれて行った。
瞬きをして、伝った雫がアスファルトに落ちる頃には、空は何事も無かったかのように、彼のオプティックと同じ青色を映し出していた。
*_*_*_*_*_*_*_*_*_*
fin.サテライト
(また会えたら、その時は、地球の傍に居る月のように)
(あなたの隣にいさせてね)