ニューリーダー病/スタースクリーム
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「スタスクってなんでそんなにリーダーに拘るの? あんな肩が凝る損な役回り…こっちの気力が削られるだけじゃん」
人間の食料を運んできた彼に目線を少しでも近づけるため、ドラム缶を足場にしながらなんの気なしに問いかけた。
スタースクリームは私を無視したが、いつもの事だったので気にならなかった。
私が騒げば結局会話してくれるし、問題ない。我ながら、随分と肝が据わったものだ。
デストロン基地に誘拐されてから数ヶ月。
地球を侵略しようと企む悪の軍団たちは、自分よりも遥かに体が大きく材質も違う上に、その性格は野蛮ときたものだから、訳もわからず彼らの海底基地へ連れされらた最初のうちは口もきけないくらいに彼らのことを恐ろしく思っていた。
しかし食事や身の回りの世話をしてもらいながらここでの暮らしに慣れていくと、恐怖心で気づかなかったことにも気が回るようになってくる。意外にやることが無いことに気付いたのだ。
人間どんな窮地に陥っても退屈にだけは敵わないらしい。私の話し相手になってくれる対象には自然と警戒心も薄れてくるってもんだった。
スタースクリームは「この小娘をダシにサイバトロンを揺すってやりましょうよ!」とメガトロンに啖呵を切った、言わば私誘拐作戦の首謀者であり実行犯である。
そのせいで私の世話もやらされることになった訳だけど、最近は(無視されることはあるものの)目の前で悪態をこぼすことも無くスムーズに会話してくれるようになったので、彼は軍団の中でも特に慣れ親しんだ相手(と勝手に思ってる)であり、私の良き暇潰し相手であった。
侵略される側の種族としてそれってどうなの?とは思うけど、叩き潰そうと思えば私なんて簡単にケチャップにできてしまう彼らを前に、1人の人間ができることなど無いのだから仕方ない。
私にはできるだけ彼らの逆鱗に触れないように生きることしか選択肢は残されていないのだ。
立っていた場所から、ドラム缶がさらに高く積み上がっている山の方へ飛び移り、「ねえーーーー!!スターァァァスクリーィィィム!!」とデストロンのボスが彼を折檻している時の呼び声を真似して叫ぶと、スタースクリームは不機嫌そうに壁を蹴り上げながらも渋々こっちを向いてくれた。
スタースクリームの逆鱗は意外と触れられない距離にあるらしく、これだけで彼が怒ることがないことは知っていた。
《ったく、鬱陶しいなぁ!……で?なんだよ》
「だからぁ、なんでいつもメガトロンがやられると、ニューリーダーニューリーダーって馬鹿の一つ覚えみたいに触れ回ってるわけ? リーダーなんて、部下をまとめなきゃいけないし面倒じゃない」
《は?わかってねえなあ、お前。……あー、でも仕方ないか。お前みたいな下等な種族には、俺様の崇高な考えは到底理解できないもんな!ハハハ!》
「別にそう思ってもらってもいいけど。だってリーダーなんて悲惨じゃんか。集団の責任はいつも押し付けられるし、ひとりで出した結果も"チームの物"みたいな雰囲気出されるしさ。せっかく頑張っても、損した気分になるだけじゃない」
メガトロンがお約束とでもいうような流れでサイバトロンにやられた時、スタースクリームは本当に、それはもう嬉しそうにニヤつきながら先陣を切りたがる。
彼に深い興味があるわけではないが、暇潰しに話すならぜひとも彼の胸の内を聞いてみたかった。
私は高校のグループワークでいつもリーダーを押し付けられるような役回りで、何かと損をさせられることが多い人生を順調に歩んで諦観の境地に至った人間だ。
だからスタースクリームのニューリーダー(笑)のマインドを参考にすれば、少しは損することも前向きに取れるようになれるかも、と軽い気持ちで考えたのだ。
デストロンに解放されて人間社会に戻れる保証はどこにも無いんだけれど。
《お前はバカだな〜》
「うわっ?!」
デストロン軍団は私たち人類を、まるで息をするかのように罵倒するため今回もいつもみたいにスルーしようとした。
けれど、スタースクリームに服の首根っこをつままれ持ち上げられてしまい、反応せざるを得なくなる。
首が締まらないように襟を掴んで気道を確保するけど、長くは持たないだろう。
スタースクリームの眼前に持ち上げられると、赤いオプティックが私を嘲笑うように点滅する。至近距離で彼のニヤケ顔を見たのは初めてだった。
《そんなモン、力で解決するに決まってんだろ! ムカついた時は殴って立場をわからせてやればいい……気分もスッとするしな。リーダーってのはな、お前の言ってる下僕とは違ぇんだよ一緒にすんじゃねえ。尤も、お前には下僕みたいな、みっともない人生がお似合いだろうがな》
スタースクリームは自身にとってニューリーダーとはどうあるべきかについて力説すると、得意そうな顔で鼻を鳴らした。
下僕。
私の十数年にわたる人生を散々コケにされバカにされたというのに、その言葉はどういうわけかストンと自分の中に入ってきた。
…そうか、私は今までそういう存在でいることを妥協して生きてきたのか。
スタースクリームのように殴り返そうとすら思いもせずに。
「……かっこいいなあ」
無意識に口から零れ落ちた言葉を飲み下すように慌てて口を押さえる。だが時は既に遅く、私の言葉は彼に届いてしまっていた。不覚。褒めるつもりなんてなかったのに。
人間の常識やモラルから考えればスタースクリームの価値観は正しいとは言えないのだろう。
けれどあんまりにも潔く、スタースクリームが私との違いを見せつけてきたもんだから、私はそのいっそ清々しいような悪のポリシーに、一時魅せられ惹かれて感嘆してしまったのだ。
彼のようになれたなら、なんて有り得ないことを考えてしまった。
《は、はぁ?気持ち悪っ》
スタースクリームは苦虫を噛み潰したように顔を歪めると、隅に放置されていたぼろ布の山に私をポイッと投げ捨てた。ざ、雑!
咄嗟に受身取ったから良かったけど、私じゃなかったら死んでたんですけど!
舞い上がった砂や埃に咳き込みながら体を起こし、拳を上げる。
「ちょっと!何すんのよ!」
《うっせえブス!お前が変な事言うからだよ!》
「あ、待て!逃げるな!!!」
そそくさと立ち去ろうとするスタースクリームを追おうとしたが足がもつれてしまい、逃げられてしまった。あんにゃろうこの借りは絶対に返してやる覚えてろ。
_後日、スタースクリームにパイ投げをしたせいで暫くご飯抜きにされたのは言うまでもない。
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fin.ニューリーダー病
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