独占欲/Soundwave
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「……──!」
《……?》
デストロン基地の自室にて。
ミックスリストを大音量で聴いていたサウンドウェーブは、装着しているヘッドホン越しに、誰かが何か話しているのを聴覚回路で聞きとった。
最初は、ヘッドホンかプレーヤーに不具合が起きてボーカルの声がおかしくなったのかと思ったが、頭がグイグイと後ろに引っ張られていることに気付くとそれが間違いだとわかった。
自分より遥かに小さな存在にハチマキを引っ張られたようだ。
人間同士でこんな事をしたら引っ張られた側の首は変な方に向いてしまうだろうが、サウンドウェーブの場合はそうならない。
彼女からしたら結構な力で引っ張ったんだろうが、サウンドウェーブの頭部と、胴体とを繋ぐ配線の首は、少し音を立てるくらいでビクともしない。
以前彼女に、人間の間で読まれる童話を教えてもらったことがある。大きなカブを抜くために様々な生物が奮闘する話なのだが……。
振り向けばきっと彼女は、その本の挿絵のように真っ赤な顔をしているに違いなかった。
ぷるぷる震えながら彼女が自分の気を引こうとしている様子を想像して、サウンドウェーブはその可愛らしさに悶え、このまま放置しようか迷った。
しかし、いつまでもこうしていると彼女が涙目になって去る可能性もある。
2つの感情に板挟みになりながらも何とかサウンドウェーブは気持ちを切り替えて、ヘッドホンを外し、振り飛ばしてしまわないようにゆっくり後ろを振り返った。
足元には、思った通りの人物が顔を赤くして立っていた。汗が滲んだ顔でクインはこちらを見上げた。
「やっと気づいた!」
《何か用か?》
自分と目が合った途端に満面の笑顔になった彼女を前にして、ずっと前から気づいてましたなんて口が裂けても言えなかった。
目線を合わせるために膝を折ると、立てていない方の膝へ、クインが甘えるように抱き着いてきた。
射抜かれるスパーク。
その上クインが頬を擦り付けて来るもんだから、表に出ていなくとも、サウンドウェーブの心の中はあちこちで爆発が起こっていた。
《ンンッ、クイン? どうしたんだ》
彼女の肩に手を置きながら落ち着き払ったように問いかける。
顔を上げたクインの目は、なんだかとろんとしている気がする。
「ラヴィッジがしてるみたいに……私も甘えたくなって……」
だめ?
潤んだ目でそう言われ、断る男がいるだろうか。いや、いない。だがそれは永遠に自分だけであって欲しい。
ブレインを掠めた邪な考えをぶんぶん振り払って、サウンドウェーブは本格的に彼女を心配しだした。
なぜなら、クインは普段から他人にベタベタ触ったり、こんな事を言ってくるような女性では無いからだ。もちろん嫌ではないし、むしろ嬉しかったが、日常と180度違うことをされると体の不調を疑ってしまう。
念の為彼女の体をスキャンしてみる。
《! これは……》
《あー、ここにいたか》
困ったように頭を抑えながら、1人のサイバトロニアンが部屋に入ってくる。
《スクリーマー》
《やあ、サウンドウェーブ。休んでいる所すまないな》
「スクリーマー……」
やってきたのはディセプティコンのナンバーツー、スタースクリームだった。
クインも彼を見つけるとサウンドウェーブの言葉をオウム返しするように愛称を呼んだ。しかしその声色はサウンドウェーブと違い、どこか嫌そうな感情を含んでいた。
《クイン、逃げることないだろう。私はただ話を聞きたかっただけなんだ》
「だって……スクリーマーは絶対怒るもん」
《当たり前だ。君は未成年だろう!》
「あと1ヶ月で誕生日だもん!」
目の前でギャーギャーと言い合い始めた2人の話と先程スキャンしたクインの体から、サウンドウェーブは話の大筋を理解する。
《とにかく!君の部屋にある酒瓶は全て処分するからな!》
「えー!スクリーマー、ごめんって!ちょっと試してみたかっただけなの!」
《問答無用だ。邪魔したな、サウンドウェーブ》
《あ、ああ……》
覚束無い足取りのクインを置いて、スタースクリームは足早に部屋を後にした。
クインはスタースクリームを追おうとして膝の上から体を退かしたが、皮肉なことに全身に回ったアルコールが彼女の行動を制限して、フラフラとその場に座り込む形になってしまう。
スクリーマーのあの足取りだと、最終的にクインが追いついたとしても、その頃には部屋の中は綺麗に掃除されていることだろう。彼女もそれをわかっているようで、諦めたようにその場で横になった。
《おいおい、体を痛めるぞ》
「べつにいいもん……」
床に伏せたことで、髪が彼女の顔を隠してしまう。
サウンドウェーブは器用に髪を避けると、むくれた表情の彼女を慰めるために人差し指で頭を優しく撫でた。
《なあクイン……俺は知ってるぜ? お前が理由なくヤケ酒する訳ないってな。……話してみろよ》
「…………誰にも言わない?」
《ああ。言わねえ》
少し唸った後、彼女は内に秘めていた……スキャンしただけではわからない悩みを打ち明けだした。
相槌を打ちながら、サウンドウェーブは数秒前のスクリーマーを思い出した。
スクリーマーは一見、何の事情も知らない人からすれば、社会的ルールを破ったことでクインを叱ったのだと思われてしまうのだろうが、実はそうじゃない。
悩みの原因を思い出したのか、クインの目尻が濡れる。サウンドウェーブはそれをそっと拭いとると、彼女に感謝の言葉を送られた。
スクリーマーにはきっと一生、自分のような立ち位置は手に入れられないのだろう。
心配が怒りに変換されてしまう彼では、こうして話を聞いて優しく撫でてやることができない。だが敢えてそれを教えてやることもないだろう。
クインの頭を撫で続けながら、サウンドウェーブは自分が彼女の"特別"であることに、心の底から嬉しさが湧き出るような感覚を覚えた。
スパークの中に巣食う激しい感情は、本人以外誰にも知られることは無かった。
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fin.独占欲
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