伝えてやるべきだった

「血は舐めても美味しくない」

 不味いし喉に貼り付く感じが嫌だ、と深く帽子を被り直し高台の白い廃屋から星都の街を見下ろす青年は、隣で赤い小瓶を差し出した金髪の少年に言った。

「何故です? お兄様。アルシュナ兄様は、魔人には必要だと仰いました」
「お前は美味いと思うのか、アルドラフ」

 青年が街を見下ろしたまま言うと、金髪の少年はわかりません、と言う。
 ああお前、無理を。


「血を舐めずとも魔人は動くだろ」
「お兄様は魔術もできるから……」
「アルドラフ。わたしは飽いた。魔人は二十年で姿形が決まる。以降変わることはない。誰を好こうが構わんが、お前であってほしいと願う」

 金髪の少年は頬を染めて目を逸らした。一度も目を合わせない青年は、首を触りながら未だ街を見下ろす。


「屍の街」
「お兄様?」


 青年は廃屋から両手を広げ飛び降りた。
 小さく歯を鳴らすと燃え上がり、金髪の少年が叫ぶ間に跡形なく消えてしまった。



「また、どこかへ行かれたのですね」



 少年の兄は滅多に城へは戻らなかった。いつも帽子を深く被り、目を見たのは遠い昔。



「とても綺麗な色をしてらっしゃるのに――」


 兄弟でただ一人違う髪の色と眼を持った、長身の――。

 少年の、小瓶を持つ手が震えた。

「次は、受け取ってください――僕の血を」


 少年は小瓶を両手で包み、祈った。
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