ハルドラン
領主達が二つに割けた道の真ん中をゆっくりと五人の女性が歩いてくる。少女から成人、側近のように年齢の区別がつかぬ長身の者。皆がきらびやかな衣裳を纏い、彼女達は横一列に並ぶと揃ってドレスの端を持ち上げ目を伏せた。
ハルドラン本土を取り囲むように存在する五島国の女王。魔王の前にしか姿を現さないと言われる彼女達は、皆美しく、魔王の生涯一度きりの挨拶の場で口を揃えて言った。
「わたくしをどうか妻に。魔王様」
ロジェラータは何ともない表情で彼女達を見ていたが、何故だか側近と八将軍からどす黒いものが出ている気がしてならない。それは後で訊くとして、と、ロジェラータは立ち上がった。
「来るといい。シャルロッテ」
五人の女性は一斉に微笑んだ。瞬く間に一人の真っ白な女性に転じ、長身の彼女は頭を下げた。常に微笑みを湛える彼女は身に纏う白いドレスに散りばめられた宝石と、黒い瞳孔以外すべてが透き通るように白い。
五島国各女王には名前と姿があり、前魔王の代でも変わることなく治め続けてきた彼女達は実は一人の女性である。
微笑む女王、シャルロッテは広間に入るなり何ともない眼で自分達を見る魔王に歓喜を覚えた。何故そのように紛らわしい姿をしていると眼で問われ、今日に至るまで誰もが気付き解くことのなかった名を呼ばれた瞬間に彼女の命運は魔王へと繋がった。
シャルロッテは再度深く一礼すると、きらきらと白く輝いては宙に散った。
成人の挨拶は何事もなく終わり、いきなり妻を得た魔王に倒れる者が続出するも、シャルロッテが訪れることは希で、変わらず五島国の各女王として君臨している様子に次第に落ち着きを取り戻していった。ロジェラータがシャルロッテや五島国を訪ねることはなく、長い月日を今までと変わらず魔物達の溺愛を受けながら城の中で過ごした。
月日はロジェラータを更に美しく引き立て、魔物達を魅了し、習慣の散歩に送り出す際の側近の口付けが抱き締めながらに変わりながら、彼は一向に何かを求めることをしなかった。
前魔王が沈んだ水鏡から、彼はハルドランやミリツァの治める国、竜の住処である聖域まで、あらゆる場所を見ることができるようになっていた。探ろうと思えばあらゆる生命の気配を感じ、水鏡を介せずとも読み取ることができた。
入り口が移動し続けるこのハルドランから、わざわざミリツァの国へとゆく魔物を探り、命が絶えれば静かに目を閉じる。いつの頃であったか、ラムザが非常に手を焼いてミリツァの国とハルドランを行き来し結局我が儘の面で手に終えなかった魔物を思い出した。自由に行き来し、死体を好んで食べる魔物は誰の配下でもないのだという。魔王に興味を示さず、好きなものへだけ向けられる眼はひどく自分のものの見方に似ている気がした。
水鏡から見るミリツァの国で起きている現象を何ともない眼で見つめながら、傍らに降り立ったシャルロッテに片手を差し出す。
彼女は白くしなやかな手をそっと包み、微笑み続けた。
ハルドラン本土を取り囲むように存在する五島国の女王。魔王の前にしか姿を現さないと言われる彼女達は、皆美しく、魔王の生涯一度きりの挨拶の場で口を揃えて言った。
「わたくしをどうか妻に。魔王様」
ロジェラータは何ともない表情で彼女達を見ていたが、何故だか側近と八将軍からどす黒いものが出ている気がしてならない。それは後で訊くとして、と、ロジェラータは立ち上がった。
「来るといい。シャルロッテ」
五人の女性は一斉に微笑んだ。瞬く間に一人の真っ白な女性に転じ、長身の彼女は頭を下げた。常に微笑みを湛える彼女は身に纏う白いドレスに散りばめられた宝石と、黒い瞳孔以外すべてが透き通るように白い。
五島国各女王には名前と姿があり、前魔王の代でも変わることなく治め続けてきた彼女達は実は一人の女性である。
微笑む女王、シャルロッテは広間に入るなり何ともない眼で自分達を見る魔王に歓喜を覚えた。何故そのように紛らわしい姿をしていると眼で問われ、今日に至るまで誰もが気付き解くことのなかった名を呼ばれた瞬間に彼女の命運は魔王へと繋がった。
シャルロッテは再度深く一礼すると、きらきらと白く輝いては宙に散った。
成人の挨拶は何事もなく終わり、いきなり妻を得た魔王に倒れる者が続出するも、シャルロッテが訪れることは希で、変わらず五島国の各女王として君臨している様子に次第に落ち着きを取り戻していった。ロジェラータがシャルロッテや五島国を訪ねることはなく、長い月日を今までと変わらず魔物達の溺愛を受けながら城の中で過ごした。
月日はロジェラータを更に美しく引き立て、魔物達を魅了し、習慣の散歩に送り出す際の側近の口付けが抱き締めながらに変わりながら、彼は一向に何かを求めることをしなかった。
前魔王が沈んだ水鏡から、彼はハルドランやミリツァの治める国、竜の住処である聖域まで、あらゆる場所を見ることができるようになっていた。探ろうと思えばあらゆる生命の気配を感じ、水鏡を介せずとも読み取ることができた。
入り口が移動し続けるこのハルドランから、わざわざミリツァの国へとゆく魔物を探り、命が絶えれば静かに目を閉じる。いつの頃であったか、ラムザが非常に手を焼いてミリツァの国とハルドランを行き来し結局我が儘の面で手に終えなかった魔物を思い出した。自由に行き来し、死体を好んで食べる魔物は誰の配下でもないのだという。魔王に興味を示さず、好きなものへだけ向けられる眼はひどく自分のものの見方に似ている気がした。
水鏡から見るミリツァの国で起きている現象を何ともない眼で見つめながら、傍らに降り立ったシャルロッテに片手を差し出す。
彼女は白くしなやかな手をそっと包み、微笑み続けた。