ハルドラン
ロジェラータは機嫌良く城内を歩いた。短い三角耳よりも少しばかり上に角の先端が現れたと身体を洗いながら側近に言われ、触ってみると確かに小さな膨らみが左右にあった。
側近はデレデレしながら布を纏わせ、金の首飾りや足飾りで魔王を飾り付けては城内へ送り出す前に口付けをするようになった。特に気にもせずロジェラータは軽い足取りで修練場の扉を開ける。普段通りに瞑想しているラムザは膝を折り、頭を垂れた。
「ラムザ、角が生えたぞ」
「お祝い申し上げます、ロジェ陛下」
見た目は何も変わりないが、先端が現れたのだと喜ぶ魔王にほっと息をつく。一度外へ出たあの日以来、ロジェラータは外を求めなくなった。学びはせど、行きたいとねだることも、素振りもなく。
このところ剣技の腕を上げたが、その護身術ももうじき不要になるだろう。彼は魔王だ。成長過程にある少年の前に立てば誰もが見惚れてしまうほどに美しい。それは外見に留まらず、彼の途方もなく溢れてやまぬ潜在能力に惹かれてもいるのだ。
「ラムザ、剣はどうした」
ひどく不思議そうにロジェラータが訊くので、ラムザは少しばかり笑って答えた。
「ミリツァにくれてやりました。私の太刀を弾いたのです。このラムザ、まだまだ修練が足りませぬ」
「では、新たな剣がいるな。その者に会ったなら、再度交えると良い」
ロジェラータはラムザの前に白い指を広げると、黒い長剣を出現させる。光沢のある長剣は、半透明に幾つもの色を含んでいた。それは魔王の瞳に酷似している。
ラムザは深く頭を下げ、黒い長剣を受け取った。愛してやまない魔王の色をした剣が、彼の新たな誇りとなる。
「ミリツァは、そんなにも強いのか」
「希に。魔術を使えるようでしたから、弾くことができたのでしょう」
先が楽しみな人間だったと言うラムザに、ロジェラータは柔らかく笑った。
ロジェラータの角が生え揃うまでに月日はかからず、緩い渦を巻くようにして内側へと伸びた角の丸みに城中が更に浮き立ち、ここぞと用意していた角飾りがこれでもかと贈られたので日替わりで付けることとなった。側近以外はロジェラータに触れることをしない。触れたいのを堪え、できる限りの愛情を与える。計りもせず作り上げぴたりと嵌まる角飾りの数々に、側近が一度顔を引きつらせたのはロジェラータの知らぬところである。
日替わりで身に付けられる角飾りを見付けては、自分の贈ったものだと感極まって倒れるというのがこのところの慣例であった。
角が生え揃ったロジェラータはしばらくして普段以上に念入りに着飾られ、途方もない広間の黒い長椅子へ座ることとなった。両脇には八将軍が控え、側近は長椅子の横に膝をついている。
広間には見知らぬ顔が次々とやってきては目礼し、その数は次第に増えていく。本日広間に集まるすべてが領主だと聞かされているロジェラータは、シュリフィトの主人はどの者だろうと瞬きをした。以前シュリフィトの誓いを受けたロジェラータは黒い翼を生やした少女を目にすると、ふんわりと笑った。
深い赤色の眼がロジェラータと合うと、彼女は深く一礼する。
(リュースタ・ヴァレオン。彼女が、シュリフィトの主人)
ロジェラータには広間を埋めてゆく者達を眼に映せば名や領地を読み取ることができた。故に、紹介は要らず皆が目礼してゆくのだ。彼女はシュリフィトと同じ色をしていると、ロジェラータは思った。主従は雰囲気が似るのだと言うが、自分と側近はどうなのだろうと訊ねてみたいような気もした。
ロジェラータが目礼してゆく者達を見ていると、広間がしんと静まった。
側近はデレデレしながら布を纏わせ、金の首飾りや足飾りで魔王を飾り付けては城内へ送り出す前に口付けをするようになった。特に気にもせずロジェラータは軽い足取りで修練場の扉を開ける。普段通りに瞑想しているラムザは膝を折り、頭を垂れた。
「ラムザ、角が生えたぞ」
「お祝い申し上げます、ロジェ陛下」
見た目は何も変わりないが、先端が現れたのだと喜ぶ魔王にほっと息をつく。一度外へ出たあの日以来、ロジェラータは外を求めなくなった。学びはせど、行きたいとねだることも、素振りもなく。
このところ剣技の腕を上げたが、その護身術ももうじき不要になるだろう。彼は魔王だ。成長過程にある少年の前に立てば誰もが見惚れてしまうほどに美しい。それは外見に留まらず、彼の途方もなく溢れてやまぬ潜在能力に惹かれてもいるのだ。
「ラムザ、剣はどうした」
ひどく不思議そうにロジェラータが訊くので、ラムザは少しばかり笑って答えた。
「ミリツァにくれてやりました。私の太刀を弾いたのです。このラムザ、まだまだ修練が足りませぬ」
「では、新たな剣がいるな。その者に会ったなら、再度交えると良い」
ロジェラータはラムザの前に白い指を広げると、黒い長剣を出現させる。光沢のある長剣は、半透明に幾つもの色を含んでいた。それは魔王の瞳に酷似している。
ラムザは深く頭を下げ、黒い長剣を受け取った。愛してやまない魔王の色をした剣が、彼の新たな誇りとなる。
「ミリツァは、そんなにも強いのか」
「希に。魔術を使えるようでしたから、弾くことができたのでしょう」
先が楽しみな人間だったと言うラムザに、ロジェラータは柔らかく笑った。
ロジェラータの角が生え揃うまでに月日はかからず、緩い渦を巻くようにして内側へと伸びた角の丸みに城中が更に浮き立ち、ここぞと用意していた角飾りがこれでもかと贈られたので日替わりで付けることとなった。側近以外はロジェラータに触れることをしない。触れたいのを堪え、できる限りの愛情を与える。計りもせず作り上げぴたりと嵌まる角飾りの数々に、側近が一度顔を引きつらせたのはロジェラータの知らぬところである。
日替わりで身に付けられる角飾りを見付けては、自分の贈ったものだと感極まって倒れるというのがこのところの慣例であった。
角が生え揃ったロジェラータはしばらくして普段以上に念入りに着飾られ、途方もない広間の黒い長椅子へ座ることとなった。両脇には八将軍が控え、側近は長椅子の横に膝をついている。
広間には見知らぬ顔が次々とやってきては目礼し、その数は次第に増えていく。本日広間に集まるすべてが領主だと聞かされているロジェラータは、シュリフィトの主人はどの者だろうと瞬きをした。以前シュリフィトの誓いを受けたロジェラータは黒い翼を生やした少女を目にすると、ふんわりと笑った。
深い赤色の眼がロジェラータと合うと、彼女は深く一礼する。
(リュースタ・ヴァレオン。彼女が、シュリフィトの主人)
ロジェラータには広間を埋めてゆく者達を眼に映せば名や領地を読み取ることができた。故に、紹介は要らず皆が目礼してゆくのだ。彼女はシュリフィトと同じ色をしていると、ロジェラータは思った。主従は雰囲気が似るのだと言うが、自分と側近はどうなのだろうと訊ねてみたいような気もした。
ロジェラータが目礼してゆく者達を見ていると、広間がしんと静まった。