ハルドラン
自室へ戻ったロジェラータは、扉を閉めると小さく息を吐いた。魔物達は皆が優しい。魔王は存在していることが務めなのだと疑問に思う度に聞かされたが、ハルドランの本土を囲むように存在する五つの島でさえ、各島を女王が治めている。ロジェラータは国に対して何をしたわけでもない。国を見て回りたいと言えば、それはなりませんの一点張りで、ろくに城から出たことも、国に住む者達を見たこともなかった。何故ならぬのかを訊ねれば、まだ成人していないからなのだと言われる。身を守るすべは幼い頃から習っているが、ラムザを打ち負かしたことも、側近の手を掻い潜ったこともない。それでは、と。
ロジェラータはラムザと側近の気配を探る。微動だにしないラムザと、城中を動き回る側近の気配に、自分も同じように居場所など知れているのだと思えば気配を絶ってみようと思い立つ。ほんの少し、国を見に。
ロジェラータはラムザのように表情の見えぬ鎧頭を作り出してはそれをかぶり、身体はふさふさの魔獣の姿を真似た。
魔王の気配が消え、側近とラムザはすぐさま本土へと降り立った。微塵も感じられぬ気配と、幾層にもなる結界を難なくすり抜けた魔王に普段ならば感嘆するが、初めての我が儘にしては度が過ぎている。魔王の存在なくしてハルドランは成り立たない。前魔王姉妹が倒れ、ロジェラータが見つかるまでの間新たに魔物は生まれず、植物や大気でさえもが生を手放した。残存するそれらを糧に生き長らえた魔物達にとって、国に生をもたらす魔王がどれだけ愛しいことか。ハルドランは王を配せどミリツァの国のように法を敷く王政ではない。個々の自由が認められ、すべての恩恵である魔王を敬愛する。
ロジェラータが納得するまで説明を続けるべきであったと側近は眉を寄せた。彼は時折憂いを帯び、いつも以上に身を寄せてしがみつくような面があることを知っていながら。
ラムザと二手に別れ捜し始めた側近の姿を見た本土の魔物達は、処刑とあらば国の端まで名の広がった彼に戦き何事であるかを模索する。魔王を城から出さず、城外の者へ見せぬのはそういった視線の類いから疎遠にするためでもある。ロジェラータは成長してはいるがまだ幼い。すべてを受け入れてしまう性分ゆえに、危うい。初めてのことではあるが、見付けた後はきつく言わねばなるまいと再度眉を寄せた。冷徹極まりないといわれる側近が、魔王のこととなれば頭を描き乱される。おそらくはラムザも似たようなものだろう。
早いうちに連れ戻さねば、城の者達に気付かれ騒ぎになるだろう。毎日浮かれて過ごす彼らが落胆すれば面倒この上無い。ラムザと側近は魔王の命で外へ出ると言ってあるが、城中を散歩して回るロジェラータが長いこと見えなければ勘繰るだろう。せめて、気配さえあれば。
そうして見付けたならば、二度と、手放すものか。
ロジェラータはラムザと側近の気配を探る。微動だにしないラムザと、城中を動き回る側近の気配に、自分も同じように居場所など知れているのだと思えば気配を絶ってみようと思い立つ。ほんの少し、国を見に。
ロジェラータはラムザのように表情の見えぬ鎧頭を作り出してはそれをかぶり、身体はふさふさの魔獣の姿を真似た。
魔王の気配が消え、側近とラムザはすぐさま本土へと降り立った。微塵も感じられぬ気配と、幾層にもなる結界を難なくすり抜けた魔王に普段ならば感嘆するが、初めての我が儘にしては度が過ぎている。魔王の存在なくしてハルドランは成り立たない。前魔王姉妹が倒れ、ロジェラータが見つかるまでの間新たに魔物は生まれず、植物や大気でさえもが生を手放した。残存するそれらを糧に生き長らえた魔物達にとって、国に生をもたらす魔王がどれだけ愛しいことか。ハルドランは王を配せどミリツァの国のように法を敷く王政ではない。個々の自由が認められ、すべての恩恵である魔王を敬愛する。
ロジェラータが納得するまで説明を続けるべきであったと側近は眉を寄せた。彼は時折憂いを帯び、いつも以上に身を寄せてしがみつくような面があることを知っていながら。
ラムザと二手に別れ捜し始めた側近の姿を見た本土の魔物達は、処刑とあらば国の端まで名の広がった彼に戦き何事であるかを模索する。魔王を城から出さず、城外の者へ見せぬのはそういった視線の類いから疎遠にするためでもある。ロジェラータは成長してはいるがまだ幼い。すべてを受け入れてしまう性分ゆえに、危うい。初めてのことではあるが、見付けた後はきつく言わねばなるまいと再度眉を寄せた。冷徹極まりないといわれる側近が、魔王のこととなれば頭を描き乱される。おそらくはラムザも似たようなものだろう。
早いうちに連れ戻さねば、城の者達に気付かれ騒ぎになるだろう。毎日浮かれて過ごす彼らが落胆すれば面倒この上無い。ラムザと側近は魔王の命で外へ出ると言ってあるが、城中を散歩して回るロジェラータが長いこと見えなければ勘繰るだろう。せめて、気配さえあれば。
そうして見付けたならば、二度と、手放すものか。