ハルドラン

 ロジェラータは魔物達の日々増し続ける愛情をこれでもかと詰め込まれて育った。いつの間にかロジェ様と愛称で呼ばれ、少年となった彼は腰まで伸びた髪を揺らしながら城内を裸足で歩いた。裸に白の布を纏い、足首には側近がデレデレしながら身に着けさせた金の輪が二つずつ、歩く度に麗しい音を溢す。その音を聞けば他の魔物もデレデレしていたが、ロジェラータは足早に向かっては修練場の扉を開けた。

「ラムザ、話がある」
「ロジェ陛下、どうされた」

 胡座をかき瞑想していたラムザは片膝を折り頭を下げる。ロジェラータはラムザを立たせると、ひどく真剣な眼差しを向けた。

「角が生えなくて困っている」

 どのようにしたら他の魔物のように生えるのだろうか、と真剣に悩むロジェラータに、ラムザはお年頃だと和みながら表情とは無縁である自身の鉄仮面を誇らしく思った。

「私には角はない。このような身形ですから。気にすることはない」
「けれど、生えたらより綺麗だと言われる。ならば応えてやらなくては。角が生えれば成人などというやつもおる。あいつが今この件でえらく機嫌が悪くてな、聞くに聞けんのだ」

 あいつ、とは側近のことである。角が生えないと思い悩むロジェラータに、魔王を思い悩ませる原因をほざいたのは誰だと城中を歩き回っているのだ。

「うむ、ロジェ陛下は随分と逞しくなられた。悩まれることはない。剣技の上達も早く、皆が賞賛している。角が生えるとすればいずれ先端が見えるもの。あれはなくとも、変わりはない。その時が来たら、来たのだという体で善いのだと思われる」
「そうか……なくてもよいものなのか……いやな、何故だか既に角飾りを用意している者が多くてな……だから角がないのだがという話になった」

 ラムザは自分も側近に同行しようかという気持ちに駆られた。浮き足立つのは解る。皆が魔王を愛しくて堪らない。けれど悩ませてしまうのは妨げでしかない。

「ロジェ陛下。今日のところは自室へお戻りを。後日ミリツァの国の話をして差し上げます」

 悩み顔のロジェラータがぱっと明るい顔をしてラムザを見上げた。ロジェラータはひたすらに深い愛情を受け美しく育っていた。表情はころころと変わり、幸福そうに笑う顔がラムザは一番好きだった。
 ロジェラータが手を振りながら修練場を後にすると、ラムザはその場に座り直した。悩みの種を撒いた馬鹿を探り当てねばと瞑想を始める。ロジェラータは美しい。心酔のあまり、部屋へと忍び入る馬鹿が時折現れる。そしてすべてを受け入れる性分のロジェラータは拒まない。普段側近にそうするようにしてしがみつきながら眠っていた様を見付けた際の側近の激昂ぶりときたら見ていられるものではなかった。今回はそれをも防がねば。
 ロジェラータを自室へ戻したのだから、危害はあるまい。前魔王の妹のように異国へ飛ばされぬよう何重にも張られた結界を張り直しながら、ラムザは歩き回り続ける側近の気配を感じていた。
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