真っ白な子供は少年の顔をじっと眺めては、時々視線を髪や体にやってまた顔を見るを繰り返していた。
 肌も、睫も瞳さえも白い。
 隣に寝転んだその子は少年をなんだと思っているのだろう。
 少年が瞬きをすると真似て瞬く。
 飽きる様子もなく寝転んだままの白い子供が、このまま一緒に眠ってくれないかと願った。

 幻だっていい。
 指すら動かす気力はない。こんな情けない顔など見られたくはない。だけれど地面に染み込んだものに興味を持ったなら、今は。


「――いきるの」

 声が響いた。
 そして閉じられた白い瞼。
 少年はつられるように目を閉じて、そのまま眠って起きることはないのだと思った。

 それでも少年の体は目を覚まし、周りに誰もいない夜闇の中を生きろと這いずる力をくれる。
 白い子供はいなかった。

 もし、国がこのままだったら。子供はみんな金貨と引き換えに荷車に乗せられて、同じようになるのだとしたら。



 ほしいものがある。




 這いずりながら少年は思った。



 寄り添う誰か。

 それは自分に限ったことではない。



 その数年後、少年は騎士見習いとなりほしいものを得ぬまま名をあげていく。そして各地を己の足で見て回る王宮騎士となった彼は、旅支度を整え外套を羽織り自室の扉を閉じた。


「国境に魔物が出るという」



 石の塔には花束が手向けられた。
 砂塵に巻かれようが飛び去ることのない黒地に緑で描かれた獣を称える旗を掲げて。


 緑は王宮騎士七人のうち、彼の色だ。
 王宮騎士、ハロウェイ・ザン・ハルバロートが預かるその地を、人々は「償いの大地」と呼ぶようになる。
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