昔話

 痛みと共に意識が薄れ、気が付いた時にはモノクロの世界にいた。
 そこには先客がおり、スペードの王だと訳の分からない事を堂々と言ってのける。モノクロの衣装、モノクロの城、モノクロの空。ああ、夢だろうか。夢であるならこの苛立ちも、ぶつけたっていい。――夢であるなら、なんだってできる。

「ぼくは機嫌が悪いんだ、構わないでくれる」

 望めばスペードの王の首が飛んだ。悲鳴を上げた女王の首も刎ねた。黒い飛沫が飛んで気分が悪い。ぞろぞろと出てきた兵もすべて腕以外吹き飛ばした。

「うわあ、スペード軍殆ど死んじゃった」
「誰、君」
「ハートのキングだよ。こんにちは新たなスペードのキング。僕は君と争う気はない、降参さ。うちのエースも巻き添えで死んでるし、勝てるやつはいないよ。ダイヤ軍もそう。クラブは……ってうっわ。もうジャック死んでるじゃん。ほんと参ったよ。君のイメージする力はこの世界で一番だ」
「そ。よく喋る夢だね」
「ここは夢想世界。夢のような地獄さ。イメージの強さがすべてだけれど、いくら君でも出ることはできない。君は落とされた。僕らとは違う」
「ふうん。ハートのくせに色がないのが気に食わない。空は美しい青がいい」

 思えば、ハートのキングに赤の色が付き、空は美しい青に変わった。

「気に食わない世界だね。ここでは創る楽しみがない――人形が創れない」
「言ったろ、落とされたって。君は精神だけをこの世界に閉じ込められたんだ。長い、永い時を過ごすことになる」
「……偽物の空」

 見上げる空の色は美しいが、感動が伴わない。

「またぼくは、閉じ込められたのか」
「悲しいかい?」
「いや、絶対に殺してやる」

 方法を見つける。どんな手を使ってでも。


 数日後

「人の夢に干渉できたよ、これで捜すのが捗るね」
「この子怖い!!」


 夢でなら、なんだってできる。
 望みをすべて、叶えてやる。
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