「俺はこのまま死んでしまいたい」

 海沿いの街で鐘が鳴る。沖に集まるカモメを眺める少年は、積み上げられた石柵に寄りかかり両腕を枕代わりに顔を乗せると隣に陣取った青年に赤黒の眼を向けた。
 青年は首に触れる程度に伸びた黒髪と同じ瞳の色をしている。少年よりも良い体格と背丈、くたびれたシャツにズボン、擦り切れたブーツ。

「俺が殺してやろうか」
「ほんと? 嬉しい」

「お前どんだけ疲れてんだよ。キーリィ、しばらくウチ泊まってけ」
「……長居はしたくないな。俺追われてるからさ」
「追いかけてくる奴を片っ端から解体して海にぶん投げてるやつがよく言うな」

 寄りかかる少年の薄い金髪を海風が撫でてゆく。

「俺今憂鬱なんだけど。ひっそり殺してたと思ったのに。見てたんだ」
「お前が首を斬る瞬間、綺麗だと思った」
「……最悪」


 塩が喰んだ腐蝕を上から塗り固めた鉄柵に立て掛けられた2本の斧と見紛う大きな包丁はべとりと血泡にまみれ、翳る空の下にぷかぷかと浮く頭部が沖へ流されていく。

「メッセージボトルみたい。恨めしくこっち見てる」
「お前迎え討つ気だろ。嵐が来るからそこで待ってても集まらんぞ。暇潰しにウチに泊まってけ」

 黒髪の青年をちらりと見遣る少年の赤黒の眼がぱちりと瞬く。

「ベラム、アリーシャが危ない目に遭うかもよ?」
「親方が仕切るこの街でか? ありえないね、俺がいるんなら心配ない」
「嵐の日念を押してたのはどこのベラムさんでしたっけ?」
「いやーこの街治安が悪くって」
「またちょっとだけ世話になるよ。納屋でいいから」
「アリーシャと遊んでやってくれ。おまえに会いたがってる」
「それだけ?」
「いや?」

 二人は軽く触れるだけのキスを交わす。

「また恋人のフリも頼むわ」
「フリじゃなくてもいいんだけど」
「勘弁して」

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