それでも繰り返すのだろう

 積み上げられた木材の山の間にぽつりと薄い金髪がうずくまっていた。皮を剥かれた裸の木材に隠れるようにして、抱えた両膝に額を擦り付け、うずくまっていた。
 非常に、非常に珍しい。彼が振る舞いに気を払わぬなど。
 空は陰り分厚い雲がもたらす雨の気配に、笑った形のまま崩れぬ己の性に、再度笑みを崩そうとした。できるわけもなかった。

 コツコツと、歩み寄る分空気がまとわりつく。残念ながら匂いは嗅ぎ取れない。そういう人形なのだ。
 ぱしゃぱしゃと跳ねた泥に構わず、積み上げられた人体の首に構わずに彼のもとへ進むと、小さな声が漏れた。

「人を殺した」
「うむ、見ればわかるぞキーリィ。その様は後悔なのか、憔悴であるのか」
「また殺した」
「コレクターか。狩れどもわくものであるな。ハリフォードの創造は抗い難い欲を駆り立てる」
「どうして、ほうっておいてくれないんだろう」
「そうあればな。おまえが項垂れることもなかった」

 項垂れる薄い金髪の隣には、目を見開いたままの小さな頭が地面から生えている。
 その表情をなんというのか。注意は薄い金髪にあるというのに、少女の首から視線を感じた。

「アルサス、お前にないものは?」
「嗅覚と触覚であるな。しいていうならば味覚もないぞ。食べ物など受け付けんよ。私は人形なのだからね」
「俺にはあるよ。アルサスにないもの、全部あるよ。人形なのに。ハリフォードの、人形だから」
「それで人を殺した感想はどうかね」
「終わりがない、少し疲れる」
「君にないものは兄にあるだろう」
「人が来るよ、帰れよ」
「たまには私と帰らんかね。少し疲れたのだろう?」

 返答がないので、彼の隣にずっと居座っていた少女の頭を踏み潰した。

「キーリィ、私と帰らんかね。ハリフォードのいない家へ。それとも装飾箱がいいかね?」
「好きにしろよ」
「ふむ」

 シャツにステッキの先を引っかけてずるずると引きずると、おとなしくされるがまま。動く気力もないのだ。
 返り血で斑な衣服や肌に、ハリフォードがいたならばなんと言っただろうと途方もないことを何度となく思う。
 ハリフォードがいたならば、彼は人を殺す理由など持ち合わせなかった。彼は実に人間らしい。天才人形技師の、天才と謳われる由縁。

 ほんとうに、ほうっておいてくれればよかった。
 
「それだけのことなのだがね」

 
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