人形師

 二人の警官は香り高い紅茶を前にして、淡い花模様のガラステーブルに揃って肘をついた。
 両手を組み、高い鼻筋を押し当て考え込む白い服の警官を、指を緩く組み、白い彼から視線を外さぬ黒い服の警官は、花畑の中に置かれたティーテーブルと椅子にその鋭い眼を細め息をつく。

「人形を創らせれば天才で夢想世界じゃ王様、そりゃあ夢の中に閉じ込めたくもなるわ」
「殺人鬼だ。あいつは夢の中へ閉じ込められようが、変わらず殺し続けているだろう。まァ様子見てこいって署長の頼みを断れない先輩の道連れでそんな気狂いがいる夢想世界にぶちこまれたわけですけど」
「ねぇそんな目で見るのやめてよ! 片足車椅子の署長見たら行きますって言うしかないでしょ!? 指とか持ってかれてンだよ!?」
「だからベテラン最強夢想世界に閉じこめた署長がそんなんされた相手の様子を見に俺らが行くのがオカシイですよ先輩」

 白い警官は口を開いたことをほんの少し反省した。黒い服の警官は変わらずに鋭い眼を向けてくるし、口調も鋭くなっていくし、確かに署長に比べればミジンコ程度の実力で敵地に乗り込むのは無謀だと思う。
 けれど間違っているとは思わなかった。

「天才人形技師、ハリフォード・ランスが精神を夢想世界に収監され死体が減ったのは喜ばしいことです。けれど奴が夢想世界で殺した人間は、現実でも死んでしまう。これでは、同じではないですか。臓物が散らばるかの違いですよ」
「ハリフォード・ランスの体は誰かが隠しちゃったからねあはは」
「夢の中でハリフォードを縛り上げてこい、でしょう? わかってますよね、僕らは既に捕まってるんですよ?」


「勘違いするなシグナル、俺達は遊ばれてるんだ。夢の中の王様に」



 陽当たりのいい花畑の中、チョコレートで描かれたスマイルマークのクッキーがテーブルの上へ置かれる。
 運んできた硝子でできた人形もどうやら笑っているようだが、その形は天才人形技師が最初に創った形をとっていた。



「ほらこの形アンバランス人形ですよ。探しても見つからないあのおっかないやつ」
「安心しろ本体じゃない。精神がここにきてるなら色がついてる」


 白い警官、セレウスが硝子でできた人形を指差すと彼女は首をかしげた。
 黒い警官、シグナルは再度小さく息をはいて紅茶の中にスマイルマークのクッキーを沈める。


「ご馳走さま。伝えといてくれる」
「ふられてしまったねぇせっかく上手く焼いたのに」



 シグナルが声のする方を見るとどこまでも続いている花畑のど真ん中に白い猫脚バスタブがあった。


「あれだ。出ましたよ先輩」
「ねえシグナル、ハリフォード・ランスは女の子じゃないんだよね!?」
「キングだっつってんだろ童貞」



 白いバスタブに浸かる男は両手で中身を掬い、ふっと息を吹き掛けると赤い泡が飛ぶ。


「君たちの献立は何? 生き物に変わりはないでしょう。お腹いっぱい食べてきた?」
「ハリフォード・ランス。お前が夢の中でまでことを起こすと現実世界でやっかいなんだ。おとなしく遊んでいてくれないか」
「口に合うか合わないかだと思うのだけどね。愛着がつくと特別になるの? 僕は髪の先まで食べてもらえたら嬉しいと思うよ」

「残念ながら現実世界でお前の体が行方知れずでな。ご希望のそれは未だおあずけになっている」
「何をいってるの。僕は人に食べてもらいたい」



 バスタブに浸かる男がようやく二人へ眼を向けた。
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