僕の心を君に捧ぐ

 丁寧に、綺麗に、ささやかな飾り付けを施して。
 花を象り、流水を模し、箸を進める毎に陶器の紋が映えますよう。
 進める毎に気付くのです、庭園を食し現れる、その方が頬を緩ます景色を作り上げること。
 絵が現れたと驚いた方がおりました。懐かしいと和やかに仰った方もおりました。何も気が付かずに御料理が美味しかったと仰る方もおりました。
 皿を選ぶのは楽しみのひとつでありました。
 箸置きを選ぶのも、楽しみのひとつでありました。
 膳の色艶に合わせ乗る陶器が食して頂く方の眼に、良い時をと。

 
 膳はひっくり返されておりました。畳は汚れ、障子に吸い物は飛び、椀は畳に合わさって。
 割れず転がる陶器が、割れていましたらよかったと、ひろう指の先には羽鶴さまが誉めてくださった玉子焼きがありました。
 陶器に乗せた形そのままに、箸を付けられず、畳に陶器と放り出されている様が、指を震わせたのでございます。

 拾い上げ、口へ運んだ御料理は舌へ絡むことなく溶けてゆきました。雪のようだと誉めてくださった、貴方までが放られたような気分でした。


「わたくしは、貴方のためにおります」

 虎雄さまに御仕えし、皆とありますことこの身に余る幸福なのだと存じております。
 わたくしは、己の底が見えてしまっているのでございます。気の違いでありますならば、なおのこと姿は見せられませぬ。
 水瓶から掬い上げ撒いてゆく、そのすべてが終わりましたならば、どうか、笑ってくださいまし。

 

 手のひらではなくちを覆えば容易く息など沈みますものを。
 どうか笑ってくださいまし。
 わたくしには、しがみつく気など一握りもないのです。

 たいせつなあなたがたさえいらしてくださいましたなら、そのためならば、わたくしは、わたくしとともにしずみましょう。



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