雨麟ちゃんと木馬
「うりん、おきゃくさん」
「出ねえ会わねえ追っ払え今日は店開いてねえだろが……」
「雨麟、久しぶりですねぇ」
「つつ兄……!!」
香炉の隣には、えらく長身な、とぼけたにこにこ顔の派手な髪色の男が突っ立っている。
雨麟の鮮やかで目立つ桃色を濃くした髪よりも、数段強力な眼を刺す色の上に千歳緑の色無地を着るその人物はずかずかと近寄ってきた小さな頭を見下ろした。
「何が! 久しぶりだ!! またからかってンのか!!」
「手紙と一緒に雨麟の好物を入れたんですがねぇ」
「あ……? ………………入ってねぇわ!! 何させンだ!!」
「はれ。入れ物が艶々で綺麗だと思いましたんに。中に水飴、入ってませんでしたかねぇ」
「木だわ! 木馬だわ!! 食えるか!! 入れてどうすンだ!!」
「ちょいと失礼。はれ。木ぃでしたねぇ。もげませんねぇ」
「ガハハハぼけてやんのガハハハ」
「五両まで連れてきて……! 何やってンだつつ兄ぃいいい!!!!!」
派手な頭が傾くと、今まで後頭部に貼り付いていたのか毛の長い真っ白な猫が笑いながら肩に乗る。
ふさふさというよりぼさぼさの尻尾を上下させ、牙を剥き出しにして笑い言葉を話すその猫はいやに上機嫌である。
「そうだお休みなら峠の団子屋に行きませんか。水飴も置いてあるんですがねぇ」
「そこで間違えて買ったんだがなガハハハ」
「言えよ!! おめぇ毛ぇむしるぞ!!」
「若造共はおもしゅーてしゃーないガハハハ」
「おら鋏ならあンぞみっともねー長さにしてやンよ」
「雨麟、行きましょう。久しぶりですねぇ団子屋。みたらし団子がいいですねぇ」
「おい待てつつ兄!! はーなーせ!!」
腕を掴まれた雨麟は逃れるすべがない。兄、ツツジはとぼけた顔をしているものの、背丈に見合う力で随時物事を進めるのである。
「言われたんですよねぇ板前さんに。けりをつけてくださいませってねぇ。こわいこわい」
「言われなきゃ、来なかったか……?」
少し勢いが削げた雨麟の声に、ツツジの薄紫の瞳が向けられる。
「気付いたら、すっとんできますから。可愛い弟ですからねぇ」
「食えねーけど、もらってやる」
「それは、嬉しいですねぇ」
「おめぇら似てんな」
「てめぇは黙れ」
「てめぇは黙れ」
*
「羽鶴、すまンかった」
雨麟が土産の団子と頭を下げたのは、夜のことである。
「つつ兄、兄貴がな、たまに手紙くれるンよ。それで、いっつもからかうから、かちンときたンよ」
「いかなる理由があろうと木馬で殴っていいとは思えません、って、別にいいんだけどさ。僕が無理に押したのがいけないんだし」
「むしゃくしゃすると、だめなンよ。これ、食べてな」
「うん。みんなで食べようよ」
「お茶、用意します……」
「香炉ぉお……!!!!! いつから……!!」
「ずっと、見てた……」
「香炉、宵ノ進は?」
「ちょうぼ、見てる……」
「あンがとな。宵ノ進にもいってくらぁ」
その後部屋を覗くと箪笥の上には焼酎と、五色の木馬が乗っかっているのである。
「出ねえ会わねえ追っ払え今日は店開いてねえだろが……」
「雨麟、久しぶりですねぇ」
「つつ兄……!!」
香炉の隣には、えらく長身な、とぼけたにこにこ顔の派手な髪色の男が突っ立っている。
雨麟の鮮やかで目立つ桃色を濃くした髪よりも、数段強力な眼を刺す色の上に千歳緑の色無地を着るその人物はずかずかと近寄ってきた小さな頭を見下ろした。
「何が! 久しぶりだ!! またからかってンのか!!」
「手紙と一緒に雨麟の好物を入れたんですがねぇ」
「あ……? ………………入ってねぇわ!! 何させンだ!!」
「はれ。入れ物が艶々で綺麗だと思いましたんに。中に水飴、入ってませんでしたかねぇ」
「木だわ! 木馬だわ!! 食えるか!! 入れてどうすンだ!!」
「ちょいと失礼。はれ。木ぃでしたねぇ。もげませんねぇ」
「ガハハハぼけてやんのガハハハ」
「五両まで連れてきて……! 何やってンだつつ兄ぃいいい!!!!!」
派手な頭が傾くと、今まで後頭部に貼り付いていたのか毛の長い真っ白な猫が笑いながら肩に乗る。
ふさふさというよりぼさぼさの尻尾を上下させ、牙を剥き出しにして笑い言葉を話すその猫はいやに上機嫌である。
「そうだお休みなら峠の団子屋に行きませんか。水飴も置いてあるんですがねぇ」
「そこで間違えて買ったんだがなガハハハ」
「言えよ!! おめぇ毛ぇむしるぞ!!」
「若造共はおもしゅーてしゃーないガハハハ」
「おら鋏ならあンぞみっともねー長さにしてやンよ」
「雨麟、行きましょう。久しぶりですねぇ団子屋。みたらし団子がいいですねぇ」
「おい待てつつ兄!! はーなーせ!!」
腕を掴まれた雨麟は逃れるすべがない。兄、ツツジはとぼけた顔をしているものの、背丈に見合う力で随時物事を進めるのである。
「言われたんですよねぇ板前さんに。けりをつけてくださいませってねぇ。こわいこわい」
「言われなきゃ、来なかったか……?」
少し勢いが削げた雨麟の声に、ツツジの薄紫の瞳が向けられる。
「気付いたら、すっとんできますから。可愛い弟ですからねぇ」
「食えねーけど、もらってやる」
「それは、嬉しいですねぇ」
「おめぇら似てんな」
「てめぇは黙れ」
「てめぇは黙れ」
*
「羽鶴、すまンかった」
雨麟が土産の団子と頭を下げたのは、夜のことである。
「つつ兄、兄貴がな、たまに手紙くれるンよ。それで、いっつもからかうから、かちンときたンよ」
「いかなる理由があろうと木馬で殴っていいとは思えません、って、別にいいんだけどさ。僕が無理に押したのがいけないんだし」
「むしゃくしゃすると、だめなンよ。これ、食べてな」
「うん。みんなで食べようよ」
「お茶、用意します……」
「香炉ぉお……!!!!! いつから……!!」
「ずっと、見てた……」
「香炉、宵ノ進は?」
「ちょうぼ、見てる……」
「あンがとな。宵ノ進にもいってくらぁ」
その後部屋を覗くと箪笥の上には焼酎と、五色の木馬が乗っかっているのである。