雨麟ちゃんと木馬

「雨麟、小包が届いていますよ」
「お、あンがと宵ノ進。店が休みン時くらいゆっくりしろよ、ていねぇ……! いねぇ……!」


「まぁいいや、……あ!」








「雨麟ー、お昼何がいいかって宵ノ進が」
「うるせぇ!!」
「何だよ、何怒ってんだよ」
「ほっとけ!! あっちいってろってンだろ!!」
「お昼は……」
「いらねぇ!!」


 羽鶴が部屋を覗けば普段はイタズラなりからかうなりしてくる雨麟が視線すら合わせず胡座をかいたまま器用に背を向けた。
 頬を膨らます、なんてお客の相手かふざけているときにするくらいのものだが、なんとなく今もそうなのではないかと羽鶴は雨麟に近寄った。


「食べないとおなかすくよ」
「………………っ!」


 振り向いた雨麟に羽鶴が怯む。
 それはもう、毛を逆立てた猫のような、むしろ大型肉食獣のような、普段の茶化す面とはかけ離れた不機嫌極まりない表情に、ようやくこれはまずいと気が付くも、丸めた包み紙が飛び頬をぶたれた気持ちになった。


「久しぶりに手紙寄越したと思ったら……! 何が! 元気か、背は伸びたか、だ! こンなもン、送りつけてきやがって!!」


 握られた小さな手が羽鶴の胸を力任せに叩く。片方の手にはぐしゃぐしゃの紙、もう片方には、指の間から赤色の顔を出した木馬。
 可愛いげのある木馬の顔に頬を緩ます暇もなく、畳の上に散らばったいくつかの色違いの木馬に羽鶴はさっと血の気が引いた。


「ばかたれが!! またからかって……!」


 可愛いげのある赤い木馬は容赦なく羽鶴の額を直撃した。









「ガッシャンゴッシャンでひどい目にあいました」
「見ればわかるよ鶴」


 呆れ顔の大瑠璃が、濡れた布を寄越しながら言った先の顔はしょげながらも曇り気味である。
 ほんの少し困った顔をした宵ノ進と、無表情に近い香炉の視線を浴びながら、羽鶴は考え込んでいた。



「よいのしん」
「はい」


 宵ノ進の着物を軽く引っ張って見上げる香炉はそれきり何も言わなかったが、彼は二度瞬きするとやんわり微笑んで彼女と共に奥の廊下へ消えていった。

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