二.花と貴方へ
*
ぱりん、玉露でたっぷりと満たされていた湯飲みが亀裂に負け割れた。
食後の豆大福を平らげて、ご満悦だった元看板の引きこもりは卓上に広がった玉露に不機嫌極まりない表情を浮かべる。
「大瑠璃、鉄二郎さんたち帰ったけどこれからお客さん……え、何大瑠璃、血が出てる、えっと薬箱……!!」
「大袈裟だよ。玉露……」
「淹れ直せばいいからあ!! 大袈裟じゃないでしょ、口から垂れてる!!」
割れた破片でざっくりと切れた指をくわえている大瑠璃は、面倒くさそうに口を離すと手の甲で垂れた血を拭う。ぼたぼたと卓上の玉露に滲む血に、羽鶴の顔がどんどん真っ青になっていく。
「ほら、指出して……なんでこんな……」
「いきなり割れたの」
流水紋の手拭いで仮の血止めをし、予備の手拭いで口元と手の甲を拭ってやるとむっとした視線が羽鶴に向く。
「いいから。大丈夫だよ」
「うっかり口とか拭いちゃったのは悪かったけど! これ大丈夫じゃないやつだって僕にでもわかるよ! 薬箱取ってくるから! いなくなっちゃだめだからね!」
「いや、この大瑠璃をなんだと思ってるの……」
すべてを聞かずばたばたと駆けていく羽鶴にため息を溢して、大瑠璃は不器用に結ばれた手拭いを見つめる。
(宵が選んでくれた湯飲みなのに)
大事に使っていたから今まで小さなひびすらなかったのに。
「おい大瑠璃!! ざっくりやったって見せな!!!」
「うわ一気に騒がしい」
「もお!! お前これ絶対痛いのに痛そうにしないから!! 雨麟お願い僕じゃ手当て厳しい!!」
「だから二人とも大袈裟に……」
「っしゃ任せとけな!」
「聞けやこら」
薬箱を抱えて雨麟と戻ってきた羽鶴はうっすらと涙目である。そうだった、そういえばこの子結構な泣き虫だった。遠い眼をしながら羽鶴と雨麟を映した大瑠璃は、されるがままに手当てを受けては外した手拭いで玉露を拭き取った。
「ありがとう、ちゃんと綺麗にしとくから」
「いやいや? この雨麟ちゃンがいるからにゃご覧の通りすぐ消毒ピカピカ手間要らずよ? しかし派手に割れたなあ。なンだこの割れ方」
「鶴は触ると危ないからね、雨麟に任せようね」
「ええ何物凄い子供扱いしてええ……!!」
「すまないねこれから客が入るのに。朝日もいないから、昨日より大変だけれど」
「いいや気にすンな。虎雄がついてるしよ」
「……今日は早めに閉めてもらおうか」
「まァその方がいいわな。ウチぁしょっちゅう早閉めだの休みだのやるから、常連客は慣れてンだろうし」
「鶴、今日は外に行かないでね」
「え、うん…………まさか」
「念のため、かな」
昼からの客が押し寄せて、てきぱきとこなす雨麟の指示を受けながらくるくると運び回っていた羽鶴は夕方にはくたびれてしまった。いつにもまして客が多い。その上朝日もいない分、わかってはいながらも負担が大きい。夜は早めに閉めると許可が降りたと言うが、羽鶴には会釈程度の余裕しかない。
仕込み時間を頂いて、夜の客が来るまでの静かな座敷の柱に背を預けた羽鶴は廊下に座り込んでラムネを開ける雨麟とささやかな休憩を取っていた。
「今日何かのお祭りだっけ……?」
「そういや宵ノ進がいねえから忘れてたが重陽の節句だわ……どうりで宵ノ進はいねえのかと聞かれまくったわけだわ……」
「えっ完全に旅行中だけど何か大事な日だったわけ……?」
「なンつーか華道だよ。菊祭り的な……いやあンま適当だと怒られそうだけどよ。宵ノ進は菊の生け花も見事でよ。まァ趣味で始めて店に飾り出したらテンション上がった客と仲良くなって口伝えに広まって、寄ってくれるようになったンだがよ。しくじったなあ。日程決めたンは殆ど俺だ。息抜き必要だよなって虎雄に相談したらじゃあこの辺って決めたンだがよ」
「はあ、でもいないものはいないでしょうがないじゃない。必ず約束してた訳でもないんだからさ。多分、毎年そうならお店にいて顔を出すのが波風立たないんだろうけど。お医者さんと予定が合ったんだから、行ってよかったんだ」
「あンがとな。……あ~夜の客入り次第だがよ、羽鶴。こりゃあまずいと思ったら俺に伝えてから引っ込むといいぞ、背ぇつつくでもいいからよ。無理してやるもンじゃねえからよ」
にかっと笑う雨麟の顔にもちらほら疲れが見えている。小皿に鶏の唐揚げと俵むすびを乗せて持ってきた白鈴に香炉の様子を訊ねると、会話の余力がないらしい。心配そうにしている白鈴も、なだれ込んだ受付に追われて気疲れした様子である。
満身創痍。なんだこの状況。
「早閉めすっからそこは気が楽だがよ」
仕込みを終えて開店すれば、あっという間に客がなだれ込み満室に、お膳を運んでいっぱいいっぱいの羽鶴は個室に料理を届けるが、何度呼んでも返事がない。障子を開ければ荷物はあれど客の姿はなく、首をかしげるも対応しきれないため閉めきっているはずの大座敷からの笑い声にさっと血の気が引く。
慌てて大座敷の前で膝を折り個室へ戻るよう襖を開ければ、その人数に目眩がした。酒で酔った客ばかり、普段よりはうんと少ないが、出来上がった小さな宴会場に羽鶴の声は届かずに、雨麟の元へと行こうとした脚と肩を掴まれ一層くらくらと視界が回る。
(何を言ってる……? だめだ、ぜんぜん聞こえない……)
ぱちん、大きな手のひらが客の手を叩き払うと羽鶴はふわりと廊下へ引っ込められる。
「乱暴はいかんのですがねぇ」
何事かを浴びせようと開いた客の口は開いたまま、しんと音が掻き消えた。どちらかというと青ざめている。
すっぽりと羽鶴を隠してしまう背中は黒地に青紫の焔が描かれた羽織に守られて、大きく映るも凄まじくどぎついピンク頭の短髪に一瞬雨麟の顔が浮かんだ。
「こんなに散らかして、お部屋、誰が片付けるんですかねえ。うん、でもこれだけ散らかっていたら、投げ飛ばしてもみぃんな擦り付けられそうですねぇ、そうしましょ」
「……え、すみません投げ飛ばすとかちょっと待って……うわああああ飛んだあああああああ」
派手なピンク頭は近くにいた客の頭を片手で掴むと集団目掛けて投げ飛ばし、悲鳴が上がる中視界に映る手近な客の服の端を引っ掴んでは片っ端から投げ飛ばしてゆく。羽鶴の静止むなしく、土下座で許しを乞う酔いのさめた客以外を畳に叩きつけると、適当にしゃがんで一言低い声を飛ばすや流れるように財布が差し出され、今度は聞こえるように「受付へどうぞ」と僅かに顔を動かした。
土下座の客が慌てて走り去ると、くるりと派手なピンク頭がにこにこ顔で羽鶴に向いた。
(ひっ……! どっ、どうしようかつあげだ……! この人かつあげだ……!)
「あのう、ちゃあんとお支払が済むまでお付き合い願えませんかねぇ。逃げられても面白いんですけど、こんなに人質おりますし、少しお休みしましょ?」
ぱちりと開いたつり目が怖い。ゆったりと大きな口が笑うのが怖い。宵ノ進がいたらそれはそれで絶対零度、なんだろうこの手に負えなさそうな御仁。
「なんで、投げ飛ばしたんですか……」
「あれまぁ、馬鹿は頭を打ってやりませんと。ほら、このあいだ死んでも治らんと聞いたので、ならば伸びて起きたらどこかしらがずれてよくなるのではと思いましてねえ。冗談ですけどねえ」
「犯罪ですからね?」
「羽鶴くんは選んでお喋りできる子だと思うのですがねえ。はれ、震えてはる。怖いか、よしよし」
本気で困った顔をして大きな手が羽鶴の頭をまふもふと撫で、ぐったり顔の羽鶴は説得という選択肢を投げされるがままになっていると、ドタバタと物凄い勢いで廊下を駆けてきたオールバックが派手なピンク頭目掛けて勢いままに飛び蹴りをくらわせた。
「ったくよお客投げるばかがあるか! あン?! つつ兄!! 大の大人の泣きべそ謝罪見たって嬉しかねえンだわこちとら!!」
「はれ、雨麟の足はまだ小さなままですか。可愛らしいですねえ」
「話聞いてンのか!! 小さかねえわ!!」
「大丈夫ですよ、雨麟に害なすふとどきものはみぃんな心を折ってやります」
「嬉しかねえわ!! 余地なしか!! ほらみろ羽鶴が固まってンじゃねえか!! 座敷も客もこンなでもおどおすンだ!!」
放心気味の羽鶴を再度ふあふあと撫でながら、派手なピンク頭は小さく頬を膨らませる。
「戸でも開けて庭から放ればいいじゃないですか。座敷はこれらの仕業です、必要なら一輪車にみぃんな乗っけてほっぽり出してやります。五両が今宵は危ないからと。……家の番はするから行ってこいと」
「え、ちょっと待てよ、つつ兄、心配で……? たしかになンかおかしいけどよ、外で何が起きてンだ……?」
「外は危ないそうですよ。ですから兄は泊まります、この子のお部屋に!!」
大きな両手がぎゅっと羽鶴を抱きしめそのまま雨麟を見つめると、奥歯を噛みしめたオールバックは反撃することを諦めた。
ぱりん、玉露でたっぷりと満たされていた湯飲みが亀裂に負け割れた。
食後の豆大福を平らげて、ご満悦だった元看板の引きこもりは卓上に広がった玉露に不機嫌極まりない表情を浮かべる。
「大瑠璃、鉄二郎さんたち帰ったけどこれからお客さん……え、何大瑠璃、血が出てる、えっと薬箱……!!」
「大袈裟だよ。玉露……」
「淹れ直せばいいからあ!! 大袈裟じゃないでしょ、口から垂れてる!!」
割れた破片でざっくりと切れた指をくわえている大瑠璃は、面倒くさそうに口を離すと手の甲で垂れた血を拭う。ぼたぼたと卓上の玉露に滲む血に、羽鶴の顔がどんどん真っ青になっていく。
「ほら、指出して……なんでこんな……」
「いきなり割れたの」
流水紋の手拭いで仮の血止めをし、予備の手拭いで口元と手の甲を拭ってやるとむっとした視線が羽鶴に向く。
「いいから。大丈夫だよ」
「うっかり口とか拭いちゃったのは悪かったけど! これ大丈夫じゃないやつだって僕にでもわかるよ! 薬箱取ってくるから! いなくなっちゃだめだからね!」
「いや、この大瑠璃をなんだと思ってるの……」
すべてを聞かずばたばたと駆けていく羽鶴にため息を溢して、大瑠璃は不器用に結ばれた手拭いを見つめる。
(宵が選んでくれた湯飲みなのに)
大事に使っていたから今まで小さなひびすらなかったのに。
「おい大瑠璃!! ざっくりやったって見せな!!!」
「うわ一気に騒がしい」
「もお!! お前これ絶対痛いのに痛そうにしないから!! 雨麟お願い僕じゃ手当て厳しい!!」
「だから二人とも大袈裟に……」
「っしゃ任せとけな!」
「聞けやこら」
薬箱を抱えて雨麟と戻ってきた羽鶴はうっすらと涙目である。そうだった、そういえばこの子結構な泣き虫だった。遠い眼をしながら羽鶴と雨麟を映した大瑠璃は、されるがままに手当てを受けては外した手拭いで玉露を拭き取った。
「ありがとう、ちゃんと綺麗にしとくから」
「いやいや? この雨麟ちゃンがいるからにゃご覧の通りすぐ消毒ピカピカ手間要らずよ? しかし派手に割れたなあ。なンだこの割れ方」
「鶴は触ると危ないからね、雨麟に任せようね」
「ええ何物凄い子供扱いしてええ……!!」
「すまないねこれから客が入るのに。朝日もいないから、昨日より大変だけれど」
「いいや気にすンな。虎雄がついてるしよ」
「……今日は早めに閉めてもらおうか」
「まァその方がいいわな。ウチぁしょっちゅう早閉めだの休みだのやるから、常連客は慣れてンだろうし」
「鶴、今日は外に行かないでね」
「え、うん…………まさか」
「念のため、かな」
昼からの客が押し寄せて、てきぱきとこなす雨麟の指示を受けながらくるくると運び回っていた羽鶴は夕方にはくたびれてしまった。いつにもまして客が多い。その上朝日もいない分、わかってはいながらも負担が大きい。夜は早めに閉めると許可が降りたと言うが、羽鶴には会釈程度の余裕しかない。
仕込み時間を頂いて、夜の客が来るまでの静かな座敷の柱に背を預けた羽鶴は廊下に座り込んでラムネを開ける雨麟とささやかな休憩を取っていた。
「今日何かのお祭りだっけ……?」
「そういや宵ノ進がいねえから忘れてたが重陽の節句だわ……どうりで宵ノ進はいねえのかと聞かれまくったわけだわ……」
「えっ完全に旅行中だけど何か大事な日だったわけ……?」
「なンつーか華道だよ。菊祭り的な……いやあンま適当だと怒られそうだけどよ。宵ノ進は菊の生け花も見事でよ。まァ趣味で始めて店に飾り出したらテンション上がった客と仲良くなって口伝えに広まって、寄ってくれるようになったンだがよ。しくじったなあ。日程決めたンは殆ど俺だ。息抜き必要だよなって虎雄に相談したらじゃあこの辺って決めたンだがよ」
「はあ、でもいないものはいないでしょうがないじゃない。必ず約束してた訳でもないんだからさ。多分、毎年そうならお店にいて顔を出すのが波風立たないんだろうけど。お医者さんと予定が合ったんだから、行ってよかったんだ」
「あンがとな。……あ~夜の客入り次第だがよ、羽鶴。こりゃあまずいと思ったら俺に伝えてから引っ込むといいぞ、背ぇつつくでもいいからよ。無理してやるもンじゃねえからよ」
にかっと笑う雨麟の顔にもちらほら疲れが見えている。小皿に鶏の唐揚げと俵むすびを乗せて持ってきた白鈴に香炉の様子を訊ねると、会話の余力がないらしい。心配そうにしている白鈴も、なだれ込んだ受付に追われて気疲れした様子である。
満身創痍。なんだこの状況。
「早閉めすっからそこは気が楽だがよ」
仕込みを終えて開店すれば、あっという間に客がなだれ込み満室に、お膳を運んでいっぱいいっぱいの羽鶴は個室に料理を届けるが、何度呼んでも返事がない。障子を開ければ荷物はあれど客の姿はなく、首をかしげるも対応しきれないため閉めきっているはずの大座敷からの笑い声にさっと血の気が引く。
慌てて大座敷の前で膝を折り個室へ戻るよう襖を開ければ、その人数に目眩がした。酒で酔った客ばかり、普段よりはうんと少ないが、出来上がった小さな宴会場に羽鶴の声は届かずに、雨麟の元へと行こうとした脚と肩を掴まれ一層くらくらと視界が回る。
(何を言ってる……? だめだ、ぜんぜん聞こえない……)
ぱちん、大きな手のひらが客の手を叩き払うと羽鶴はふわりと廊下へ引っ込められる。
「乱暴はいかんのですがねぇ」
何事かを浴びせようと開いた客の口は開いたまま、しんと音が掻き消えた。どちらかというと青ざめている。
すっぽりと羽鶴を隠してしまう背中は黒地に青紫の焔が描かれた羽織に守られて、大きく映るも凄まじくどぎついピンク頭の短髪に一瞬雨麟の顔が浮かんだ。
「こんなに散らかして、お部屋、誰が片付けるんですかねえ。うん、でもこれだけ散らかっていたら、投げ飛ばしてもみぃんな擦り付けられそうですねぇ、そうしましょ」
「……え、すみません投げ飛ばすとかちょっと待って……うわああああ飛んだあああああああ」
派手なピンク頭は近くにいた客の頭を片手で掴むと集団目掛けて投げ飛ばし、悲鳴が上がる中視界に映る手近な客の服の端を引っ掴んでは片っ端から投げ飛ばしてゆく。羽鶴の静止むなしく、土下座で許しを乞う酔いのさめた客以外を畳に叩きつけると、適当にしゃがんで一言低い声を飛ばすや流れるように財布が差し出され、今度は聞こえるように「受付へどうぞ」と僅かに顔を動かした。
土下座の客が慌てて走り去ると、くるりと派手なピンク頭がにこにこ顔で羽鶴に向いた。
(ひっ……! どっ、どうしようかつあげだ……! この人かつあげだ……!)
「あのう、ちゃあんとお支払が済むまでお付き合い願えませんかねぇ。逃げられても面白いんですけど、こんなに人質おりますし、少しお休みしましょ?」
ぱちりと開いたつり目が怖い。ゆったりと大きな口が笑うのが怖い。宵ノ進がいたらそれはそれで絶対零度、なんだろうこの手に負えなさそうな御仁。
「なんで、投げ飛ばしたんですか……」
「あれまぁ、馬鹿は頭を打ってやりませんと。ほら、このあいだ死んでも治らんと聞いたので、ならば伸びて起きたらどこかしらがずれてよくなるのではと思いましてねえ。冗談ですけどねえ」
「犯罪ですからね?」
「羽鶴くんは選んでお喋りできる子だと思うのですがねえ。はれ、震えてはる。怖いか、よしよし」
本気で困った顔をして大きな手が羽鶴の頭をまふもふと撫で、ぐったり顔の羽鶴は説得という選択肢を投げされるがままになっていると、ドタバタと物凄い勢いで廊下を駆けてきたオールバックが派手なピンク頭目掛けて勢いままに飛び蹴りをくらわせた。
「ったくよお客投げるばかがあるか! あン?! つつ兄!! 大の大人の泣きべそ謝罪見たって嬉しかねえンだわこちとら!!」
「はれ、雨麟の足はまだ小さなままですか。可愛らしいですねえ」
「話聞いてンのか!! 小さかねえわ!!」
「大丈夫ですよ、雨麟に害なすふとどきものはみぃんな心を折ってやります」
「嬉しかねえわ!! 余地なしか!! ほらみろ羽鶴が固まってンじゃねえか!! 座敷も客もこンなでもおどおすンだ!!」
放心気味の羽鶴を再度ふあふあと撫でながら、派手なピンク頭は小さく頬を膨らませる。
「戸でも開けて庭から放ればいいじゃないですか。座敷はこれらの仕業です、必要なら一輪車にみぃんな乗っけてほっぽり出してやります。五両が今宵は危ないからと。……家の番はするから行ってこいと」
「え、ちょっと待てよ、つつ兄、心配で……? たしかになンかおかしいけどよ、外で何が起きてンだ……?」
「外は危ないそうですよ。ですから兄は泊まります、この子のお部屋に!!」
大きな両手がぎゅっと羽鶴を抱きしめそのまま雨麟を見つめると、奥歯を噛みしめたオールバックは反撃することを諦めた。